本日 55 人 - 昨日 6 人 - 累計 53470 人
そもそも出会うべきでなかった僕ら


ハローバイバイ、また来世


次に僕たちは希望を思った。それしかなかった


ねェ、愛してると云って


口から毒


デストルドー・ラヴ


出会い狂った僕たちの末路


逃げる事は許されなかったから、


嘘吐きな貴方の「来世こそ、上手くいくさ」



心中へ思う言葉。


昨夜、寝ぼけながら書いたものを修正+追加。


(雰囲気が少し中世・・・・・・っぽいかもしれません)




それが禁じられた愛だという事は、理解していた。


この国は宗教色が強い。国民の殆どは同じ宗教で、街には協会や聖書を売る本屋が溢れ、少し適当な店を漁れば簡単に信仰者の仲間入りを果たせるぐらいだ。

よもや国民の常識にまで浸食してきたその宗教の教えは、格段特別なものではない。困っている人は助けなさい、慈善を惜しむな、信じれば救われる、神はいつもあなたを助けようとしている・・・・・・常套句のオンパレード、つまらないとさえ思う。「この教えに感動して入信したんだ」という奴を良く見るが、それならこの宗教である必要はないだろう。

とは言えど、俺も信仰者の1人だ。教会も行くし、集まりにも出る。いつかには、子ども相手に聖書朗読もした。全て、何となく、だった。周りが入っているし、国教とさえなったその宗教に入って損もなかった。

――だが、今俺たちは、その宗教に、苦しめられている。

「レックス」

「なんだ、バン」

「どうして、駄目なんだろうね」

聖書を軽く持ち上げて、バンは悲しそうに俺に向かって笑いかけた。どこかのページが開かれている。俺はそのページの内容が、見ないでも十分に分かっていた。何十回も読んで、何十回も苦しまされた、そのページ。

「『汝、同じ者を愛すべきではない。汝らは後世をつくる義務があるのだから』」

嗚呼、神はエゴイストだ、ヘテロセクシャルだ。世界には同性愛を隠さずに生きていられる奴らもいるのに、何故俺たちは隠さなければいけないのだろう。ただ、生まれた場所がここだった。それだけで俺たちは、こうやって縛り付けられ、苦悩しなくてはならない。

・・・・・・嗚呼、バン。願わくば俺は、この人生を巻き戻したい。どこまでと言われたら、そうだ。生まれる前だ。いっそ生まれてきたくないんだよ。母親の胎内でまだどろどろな自分を、自分の意志で、ぶち壊したい。そしていつか体内から排泄物として出て行くんだ。誰にも分からずゆっくりと俺は出て行って、自然な流産なんて滑稽なショーをしてやる。

バンは俺の手を取って微笑んでいた。2人ベンチに座って、ただこの夜を過ごす。ハーフパンツから覗く脚は眩しいぐらいに白く細く、家族からの寵愛が至るところに散りばめられている。ポケットに仕舞われた懐中時計は良く知る高級ブランドの物だし、履いている靴もシャツも、良く知るブランドだ。それを嫌味なくさらっと着こなせるのは、偏にバンの性格が成せる技だろう。

ここは花園。街が作った町民全員の為の花園とは名ばかりに、実態は放置され荒れ放題で、ごく少数のボランティアによって成り立っているようなところ。

「ここはね、毎年、薄い赤の薔薇しか咲かないんだ」

バンが呟いた。声変わりをまだ迎えていない、ソプラノの様な声が俺の鼓膜を震わす。まるで、野外オペラだ。俺は唯1人の観客。席は俺とバンの分しかなく、バンは静かにオペラを歌い続ける。

「でも、1年だけ、凄い綺麗で真っ赤な薔薇が咲いたんだって。ねぇ、何でだと思う?」

分からないな。そう笑おうとバンを見て、言葉をなくした。その目はあまりにも純真で、それでいて、挑発的だった。黒い目は底なしで、底なしの好奇心と光を帯びている。まだバンは、物事の善悪や常識非常識が不安定なんだろう。バンの部屋を思い出せば、それは容易に分かった。散乱するクレヨン、書かれた1枚の絵、その時見せた恐ろしい好奇心。全てが今、ここに帰結していた。

バンは俺の言葉を待っている。本能が、俺に告げた。嗚呼、昔なら本当に分からなかっただろう。しかし、今なら分かる。そうだな、バン。俺たちに力はない。ただ、互いを引き留める力しかない。世界の前に俺たちは無力だ。この世界が俺たちを邪魔するというのなら、この世界から逃げてしまえば良い。俺はバンの手を取り呟いた。

「来世も、俺は夫でいたいな」


痛みが全身を走る。花園の奥へ奥へと脚を動かす度にどこかが切れ、血が俺の服を汚していく。それはバンも同じだった。あの綺麗な服はボロボロになって、懐中時計はどこかで落としてしまっていた。

この先に何があるかだなんて、俺たちは知らない。ただただ、この世にあるこの「身体」という器に絶望し、この茨の道を歩き続けた。秋風が俺たちの身体を撫でていた。

「あ」

バンが呟いた。突然茨が無くなり、ちょっとした広場に俺たちは放り出された。花園にこんな場所はあったか。いや、マップにもこんなところは無かったはずだ。

バンの目線は、1つに釘付けにされていた。朦朧とする意識を感じながら、その目線を追えば――赤と白の薔薇が、寄り添って咲いていた。

俺たちに言葉は要らなかった。ただ、その傍で転がる2つの頭蓋骨に、全てを理解した。ここが、今だ。俺たちはそっと目を閉じる。怖くはなかった。繋いだ手の体温が分からなくなる頃には、俺たち2人とも冷たくなっているのだから。


「ママー!見てみてー!」

少女が無邪気に叫ぶ。ママと呼ばれた女性は、ゆったりとしたワンピースを揺らしながら少女の声に応じた。

「今年は凄いわね。こんなに綺麗な赤い薔薇、見た事がないわ「まるで、人の血を吸ったような赤だな」「やだ、――の前では言わないでくださいよ」「勿論さ」

少女はなかなか自分のところに来ない両親に痺れを切らし、思わず薔薇を1つ摘んでしまう。少女は摘んだ薔薇と、摘んだ所に出来た僅かな隙間から見える白色に気付いた。「――ママ」

「薔薇って、赤いんだね」




Rose of garden
(They wished the next world.)

敗北論(花宮)

2012年09月06日
勉強なんて適当にやれば出来ちまう、運動だってちょっとコツを知れば簡単。結局、どれもこれもつまらない。

それが俺の考えだった。今でも変わらない、この世は楽なもので、適当にやれば簡単に上に行けるのだ。出来ない奴の心理が分からない。「お前はおかしい」と良く言われるがそんな事ない。おかしいのは、出来ないお前らの方だ。

そんな生活は、勿論楽しいものではなかった。空虚な楽しみばかり集まって、自分にいらないものばかり蓄積していく。いつからかその重みに負けて、笑わなくなった。自分が何をしたいのか分からなかったのだ。何でも出来る、何でも簡単、どれもこれもつまらない。同じパズルを何度も何度も解いているような倦怠感。

そんな中、俺はバスケと出会った。授業でやった時、最初はどうでも良くて、適当に流そうとさえ思っていた。

――それなのに、おかしかった。
――ボールが俺の指示で自由自在に動き、ゴールに吸い込まれていく様は、まるでパズルだ。

面白い、と感じた。


それから俺はバスケ部に入部した。面白くはなかった。周りはつまらない出来損ないばかり、先輩には良く分からない不気味な奴がいるし、練習も面倒だ。それでもやってみようと思えたのは、あの時感じた感触がまだ手に残って、脳を甘美に振るわせるから。

いつの間にか俺は、二軍のリーダーの様な役割を果たすようになった。ある意味、その時が1番バスケ「を」楽しんでいたかもしれない。人を動かす快感、自由自在に動くボールが綺麗な弧を描いてゴールに入る度、俺はよしっ、とガッツポーズを決めるぐらいだった。

認めは出来なかったものの、楽しい日々だった。バスケ部では俺は一軍になった。それに驚きはしなかったし、そんなの関係ない。自分の好きなバスケを出来れば良かった。そう、思っていた。

それでも、結局神様は残酷で、俺から笑顔を奪い去った。

それは圧倒的だった。俺たち一軍はまるでボロ雑巾のように負けた。相手は「キセキの世代」とか言う奴ら。化け物だった。俺たちの努力は無駄だ、そう示された様で、俺たちは涙を隠せなかった。

畜生。折角楽しくなってたのに、結局これかよ。楽しくバスケが出来ればいいなんて、無理なんだ。勝たなきゃ、駄目なんだ。

その日から俺は、ラフプレーをする事に抵抗を感じなくなった。快感だった。故障した選手たちの苦しそうな顔や、夢を壊された顔は特に。ざまぁみろ、弱い奴がヘラヘラ笑ってんな。ラフプレーをするようになってから、また笑顔がなくなった。バスケにも何も感じなくなった。バスケをやるのは好きだからじゃない、少し得意だから、それだけ。

ある日、いつも通り選手を故障させた。膝だった。バスケの選手にとって膝は大事に決まってる。笑みが止まらなかった。そいつは強い奴らしかったが、膝が壊れた時のあの悲鳴はあまりにも情けなく、チームにも動揺をもたらしていた。

ざまぁ見ろ。お前も俺と同じ目を見ればいい。
俺がこんな思いをしているのに、ヘラヘラとバスケをするなんて許さない。

幾年か経った頃、その選手とリベンジマッチがあった。ソイツは後輩たちを引き連れ俺の前に立ちはだかった。俺がちょっとイジればその後輩たちはみるみるウチに赤くなっていく。可愛いもんだ。お前らの前でもう1度壊してやるよ。そう思いながら、試合に挑んだ、のに。

負けた。何故だ。分からない。アイツはチームを守ろうとして、守られた。何故そんな欠陥のある選手を庇う。とっととベンチに下げてしまえばいいのに。

「また、やろーな」

何が、またやろうな、だ。何で俺が負けるんだ。何でお前のような奴が勝つんだ。実力はこっちの方が上だろう!

――その時俺は、また、敗北を知った。

ただ試合に負けたんじゃない。分かっていた。俺は負けている。試合でも、勝負でも、負けている。アイツは俺のやった事を理解し、それでも俺を受け止めようとした。それが出来るのは、仲間がいるからだろう。俺に仲間はいるか?いや、そんなのいない。あれは全部、駒だから。・・・・・・おかしいだろ、そんなの。出来る奴が勝つのが当然だろ。仲間も何もいらない。俺がいれば、それで、それで!



敗北論
(彼は愚かな立法学者だった)

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:閉鎖的レクバン

(微妙に、前作『今こそ、鳥籠の中に』の続き)


重たい瞼が開けると、黒に満ちた空間が視界いっぱいに入ってきた。嗚呼、こうなってもう何週間も過ぎた。レックスは依然として、俺をここから出す気は、ない。

「おはよう、バン」

レックスの言葉1つ1つからしか、俺は情報を得る事が出来ない。レックスがおはようって言ったから今は朝だ、レックスがおやすみと言ったからもう夜だ、と。俺は外部からの接触も情報も全てシャットアウトされていた。

「おはよう、レックス」

「今日はトーストサンドを作ったんだ」

そう微笑んで俺に食事を差し出すレックス。トーストサンドから漂う芳ばしい香りに、俺のお腹はバカ正直にぐううと空腹を告げた。最初の頃は差し出された食事を突っぱね、床にぶちまけた事もあった。今ではもうそんな事しないけど。

「ありがとう。いただきます」

ちゃんと両手を合わせてから、トーストサンドを1つ手に取って、口に運ぶ。サクッとしたトーストに、食感の良いレタス、トマトは甘くて、少しだけ振られている塩がまたその甘さを助長していた。隣に置いてある珈琲はきっと挽き立てだったのだろう、それからも芳ばしい香りがしていた。

「美味しいか?」

「うん、美味しいよ」

そう返せば、レックスはほっとしたのか、胸をなで下ろした。シャク、シャク、口内でレタスが良い音を立てる。珈琲を飲めばごくりと喉が動く音がするし、カップを下ろせばソーサーとそれがぶつかり合う音もする。溢れる音に、俺は出来る限り神経を集中させた。そうでもしていなければ、意識を逸らせないし、気が狂いそうになるから。・・・・・・嗚呼、重い。足首が妙に、重い。首が、痛い。

「足首は痛くないか、バン」

少し陰りを帯びた目でレックスは、俺を見つめた。きっと、申し訳なく思っているんだろう。やったのは自分なくせに!そういうところも可愛いとはいえ、正直今のレックスの言葉は嬉しかった。さっきから足首が重くてたまらないのだ。もう俺は逃げないのに、レックスはまだそれを外してくれない。心配なのだろう。やっと捕まえた俺が、また逃げてしまうのが。可愛いな、と思う。俺はもう、レックスしかいないのに。「ちょっと、痛いかも」微笑んでそう呟けば、レックスは少し悩んだ顔で俺を見つめた。困っているのが分かった。俺を信じてそれを取るか、自分の不安を肯定してこのままにするか。「レックス」名前を呼ぶ。

大好きな、大好きな名前だ。何回も何回も何回も呼んだ、何回も何回も何回もその名前に泣いた、何回も何回も何回も離れたくないと思った、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回もこう思ったんだ。ねぇ、レックス!

「俺はもう、レックスしかいないんだよ?」

その言葉の意味を、レックスだけは理解した。レックスは「そうだな」と意地悪く笑って、俺の足首についていた足枷を外した。カチャリ、という音を最後に俺の足は自由になる。俺はその足で立って、やっとレックスを抱きしめる事が出来た。暖かい、珈琲と煙草の匂いが染みついたコートが愛おしい。

レックスは俺の肩に手を置いて自分から引きはがすと、俺の首に手をかけた。「レックス。それは、外さないで」自分でも、変な発言だと思った。だって今でも首の違和感が辛くない訳ないし、本当は無いに超した事はない。それでも。

これがあれば、レックスは俺のものになると思った。これがある限り俺はレックスに縛られるし、これがある限りレックスは俺に縛られ続ける。

「じゃあ、そのままにしておこう」

そっと、俺の首からレックスの首が離れる。結局首輪だけはついたままになった。それで良かった。俺にはもうレックスしかいない。この閉鎖的な世界の中で、俺たちを繋ぐ何かが欲しかった。レックスはまだ外で色々な事をやっているのに、俺は違う、ここでずっとレックスを待っている。それが嫌だった。レックスを俺に縛り付けたかった。

レックスは立ち上がると、またどこかへ行ってしまう。「じゃあ、またな、バン」「うん、いってらっしゃい」早く帰ってきてね、俺のレックス。そう呟いた頃には、扉はもう閉まっていた。



―――――
お題「貴方しかいない世界」でした。
ストックホルム症候群的な感じ・・・・・・なんでしょーか。

Wwishortより



お題:レクバン   雰囲気:良い年した大人が束縛してんの



バンは、14歳だ。

14歳といえば中学校だ。バンは義務教育も3分の2を過ぎたあたりだろうか。
強制的に行かされるそこ。俺にとってそこは、あまり思い出のある所ではないが、バンはそこでの楽しみ、俗に呼ばれる「青春」を享受している。

――つまり、世界があるのだ。
――俺の知らないところで、バンは違う世界に溶け込んでいる。

仕方ない、とは思う。バンの年齢からして、それは仕方ないことなのだ。こないだ、「学校は楽しいか」と聞いた。予想していた通りの答えだった。「うん、勿論!こないだだって、クラスメートの●●とLBXバトルしたんだけどさ、そいつの●●●、凄い強いんだ。俺、ちょっと負けそうになったもん。あ、勝ったんだけどね、最後は!だって、俺、LBXに関しては負けたくないから」天真爛漫。天衣無縫。純真無垢。そんな言葉たちが、脳裏を過ぎった。

――世界、俺の手の届かない、場所。
――そこでバンが、好きな奴が、何をしているのか、知りたい。

それは、当たり前の事だろう?


だからと行って、無理に聞き出すのは好きではなかった。あくまでも、バンを傷つけないで、それで出来ることなら、バンを世界から隔離してしまいたいのだ。じゃあ、どうやって?聞き出すのは嫌。だとすれば、選択肢は限られてしまう。俺がいっそ教師になってしまおうか?・・・・・・そんな馬鹿、出来る訳もない。もっと、現実的なプランが必要だ。バンを傷つけない、それで、俺も苦しまないで済む、そんな、プランが。

今日のバンは、どことなく落ち着いていた。いや、落ち込んでいる、というのが正しいのか。いつもなら、その日その日にあった出来事を細かく話してくれるのに、今日はなぜだか喋らない。むしろ、学校の事を思い出したがらないでいる様にさえ見えた。

「どうしたんだ、バン」

俺が声をかけると、バンは寂しそうな目で俺を見上げた。いつもの目じゃない、自分は1人なんだと苦しんでいるような、心細そうで、弱そうで、愛おしい目。

「今日、学校でさ・・・・・・」

ぽつりぽつりと、バンは学校であった事を話してくれた。話を聞く限り、バンに悪い点は1つもなかった。しかしバンは、相手を怒らせてしまったと苦しんでいる。嗚呼、理不尽だ。本来なら相手が悪い問題なのに、バンがこんな苦しむなんて。いつもそうだ。優しい人が損を見る世界。おかしすぎるだろう、そんなの。

やはり、世界は汚くて、酷いものだ、と。俺はその時再認識した。俺もおかしかったんだ、バンがそんな世界に出向いていくのを止めなかっただなんて!これ以上バンを苦しませてはいけない、バンは俺の大事な人だから。最初からこうすれば良かったんだ、この世界からバンを隔離してしまえばよかったんだ。何で今まで出来なかったんだろう。たとえ世間が認めなかったとしても(いいや違う)、これはバンの為なのだから仕方がない(束縛したいだけだ、自分の傍に置きたいだけ)。

「バン、こっちに来い」

突然そう言われ、バンは戸惑っていた。だが素直に立ち上がって仕切りをどかし、俺の隣に歩いてくる。嗚呼、本当に愛おしいその存在を傷つけた奴は誰だ。「そいつは、何て名前なんだ?」「●●だよ」許さない。絶対に、復讐してやる。

だが、その前にやる事があった。俺はバンを、後ろから優しく抱き寄せた。そのまま目も覆ってしまう。カウンターの下に隠された睡眠薬は、さっきバンのオレンジジュースの中に融け、今はバンの胃の中だ。

「こんな世界にいなくていいんだぞ、バン。お前は俺が守ってやるから、もう、苦しむお前は見たくないから」

バンはずるずると崩れ落ちそうになる。俺の支えが無ければ、きっともう立てないだろう。目は虚ろで、口は無防備に開いている。「れっく、す・・・・・・」「大丈夫だ、バン。お前はずっと、幸せに暮らしていればいい」もう、誰にもバンは渡さない。バンという存在も、目線も、声も、脳も、心も、身体も、何もかも俺もものだし、何一つ、誰にも渡さない!

やがてバンの目は閉じられ、静かな呼吸音だけがBlueCatsにこだまする。嗚呼、

「最期までお前を見てるからな、バン」



―――――
これは酷い、いろいろ

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:年の差

(レックスがサターンを使用してなくて、でも復讐しようとしてる設定です。)



「お前も、もう高校生か」

そう問いかければ、バンはそうだよと胸を張りながら一冊の小さな冊子を俺に渡した。『生徒手帳』と印字されているそれをパラパラめくれば、なるほど、バンは本当に高校生になったのだと実感出来た。校則のページからは携帯についての言及が殆ど消え、服装についての言及も同じだった。担当の教員が印字されているところには、「数I」「地理」「日本史A」高校生らしいカリキュラムがずらっと並べられている。

「高校になったら俺、理系に行くんだ」

ほぉ、と思わず声を漏らした。特に文系というイメージがバンにあった訳ではないが、理系というイメージもなかった。だが、バンがどれだけLBXを愛していているかを考えれば、それ程おかしい事でもないのかもしれない。

「ぶっちゃけ、化学とかは得意じゃないんだけどね。・・・・・・で、大学でLBX工学を学んで、もっと子供達に喜ばれるようなLBXを作りたいんだ」

純真な目で未来を見据えるバンの姿に、どこか山野博士の面影を感じる。LBXに対する純粋な愛、期待、希望。LBXをただのロボットとせず、未来を見出そうとする、その姿に。

「それは良い夢だな。まぁ、俺からしたら」

バン、お前も子供だがな。いくらお前が成長していっても、俺にとってお前はずっと子供だろうし、そこから動く事はないだろう。出来れば、そのままでいてほしいぐらいだ。成長しないで、ずっと愚鈍で、純真で、子供なお前でいてほしい。

――出来る事なら、俺のする事の邪魔にならないような、そんな存在になってほしい。

味方になってほしい、同じ世界を見たい。そんな気持ちは、許された事ではないと理解しているから。そもそも、バンと"こんな関係"にある事自体許された事ではない。だから、せめて、邪魔にならないでほしい。もし邪魔になってしまったら、俺は、気が狂うだろう。

バンを傷つけたくない。でも、やりたい事の邪魔をする奴は許せない。そんな奴は全員始末してやると誓っている限り、俺はこの苦しみから逃れる事はなく、そして俺は、この誓いを破る気もない。

どことなくバンの表情が暗い事に、俺は意識をバンに戻した。「どうした?」と問うても、バンは首を緩やかに横に振って「ううん、何にも」と優しく微笑む。・・・・・・嗚呼、そんな顔をしないでくれ。その、何でも受け止めようとする、その顔。その顔を見ると俺は、いつも罪悪感に身を焼かれてしまうから!俺は、バンにとても酷い重荷を渡しているんだと、罪悪感に身を焼いて死んでしまいたくなる!

原因は分かっていた。俺はいつまでもいつまでもバンを「子供」と認識し続けるだろうし、バンはそれが苦しいのだろう。いつまでも俺と同じ土俵にすら立てない。それが苦しいのだろう、分かっていた。

バンを「子供」と認識し続けるのは、偏に俺の弱さと欲望が原因だ。バンが同じ土俵に立ってしまったら、俺は思うままにバンを貪ってしまうだろう。「大人と子供」許されない愛だと己を留めないと、理由がないと、俺は今だってバンをこの胸の中に押し込んでしまいそうだ。

それに、怖かった。バンはいつか、俺の総てを知るのだろう。その時、俺はこの手でバンを潰さなくてはならない。それが、怖かった。だったら、ずっとバンを土俵の外に出してしまえばいい。そうしたら、バンは俺の総てを知る事なく、俺に愛を叫び、求め続けてくれるだろう。

「ねぇ、レックス。俺はいつまでレックスにとって子供なの?」

ポツリと呟かれた言葉に、俺は背を向ける。珈琲を作りながら、俺はバンに見えないように微笑んだ。きっと今の顔は、醜い。

なぁ、バン。俺にとってお前はずっと子供だよ。そうでなくてはならないからだ。俺はお前を愛してる。お前と違って、これは独占的な愛なんだ。お前をずっと俺の傍に縛り付けたい。でも、お前はそうじゃない。いつか俺の傍から出て行って、世界を知って、事実を知って、俺に立ち向かうだろう。それは真実という武器を持って、だ。俺はその時、負ける。そう、俺たちに「勝者と敗者」「敵同士」という確固たる溝が生まれてしまうんだ。

それを、俺は望まない。だから、バン。俺は永久にお前を『子供』という枠に閉じ込めて、俺の土俵に登らせないようにしているんだ。

「さぁ、な」

薄い笑顔を顔に貼り付ける。濁された答えに、バンは不満げに俺から目を逸らす。その顔はまだ子供で、俺は皮肉にもその不満げな顔に安堵を覚えてしまった。




―――――
二重苦みたいなのに悩まされてるレックスでした。
バンの事は大好きだけど、敵になりそうだよなー、じゃあ敵にさせなきゃいいやー、みたいな。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:ふしぎなくすり



雨がしとしと降っていた。その雨が運ぶ湿気は重たく地面を這い回り、ドアの僅かな隙間からこの空間に流れ込んでくる。何となく、それが視覚化されるようだった。ずるずると、湿気がBlueCatsの床に蔓延っていって、やがてこの部屋全体に広がる様子が。

「どうしたの?レックス」

カウンター越し、バンがストローから口を離して問う。カラン、とそれに合わせて氷が氷とぶつかる音が部屋に響いて、湿気が少し無くなったような錯覚を覚える。バンは俺の言葉を待っていると言わんばかりに、俺の目をじっと見つめていた。俺はその目から目線を逸らして、ドアの方にそれをやる。

「雨が、強くなりそうだな」

しとしとと降っていた雨の音が、次第に強くなっていくのが聞こえた。洋服のポケットからCCMを取り出して、天気サービスのアプリを起動させると『台風―号が接近しています』・・・・・・嗚呼、知らなかった。俺は馬鹿だ。この季節の天気の気まぐれさを、忘れた訳ではないのに。

「台風が来てるんだよ、今月最大の」

心なしか、バンは楽しそうだった。日常とは少し違う非日常を楽しんでいるのだろう。その証拠に、足はさっきから前後に揺れ動いているし、目はらんらんと輝いている。

――まぁ、"こういう日"に晴れなのよりは、良いかもな。

ポン、と心を突いて出てきた言葉に、俺は顔を顰める。いけない。それだけはやってはいけない事だと、自分が1番理解していた。彼にはまだ未来がある。それを奪う権利なんて、俺には、ない。これ以上罪を重ねていく気もない。せめて、最期は"善人"と呼ばれる側にいてみたいから。何を善として何を悪とするかなんて、人間の勝手に決めた、例えば他の動物たちからしたら滑稽極まりない線引きで、結局善も悪も同じところにあるのに。戦争が良い喩えだ。戦時中は殺せば殺す程に善と言われるのに、終戦すればそれは総て悪になる。結局、そういう事なんだ、この世界は。

それでも、この世界に、俺はまだ希望を見出そうとしている。絶望のまま死にたくなかった。最期ぐらい、何かを信じていたい。夏目漱石の有名な作品を思い出す。『私は死ぬ前にたった一人で好いから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。(※)』

結局、俺も人だった。誰かを信じて死にたい。1人は寂しかった、ずっと寂しかった。だから、今日こうやってバンを読んで、ポケットにこんな物を忍ばせているんだ。

「レックス、何を持ってるの?」

雨が降っている。ざぁざぁ、バンの声が雨音に奪われそうになる。そんなの認めないし許さない。バンの最期も俺の最期も、等しくここに葬るんだから。誰も知らない、俺たちだけの秘密。雨音にも風音にも奪わせない、バンの声も顔も体温も存在も、総て俺のものにして、俺と同じところで俺と同じところへ向かうんだ。嗚呼、台風が、憎い。

「これはな、俺たちを1つにするおまじないのくすりなんだ」

まるでお伽噺のワンシーンのように、バンに語りかける。普通な最期にはさせない、他のどんな奴とも被ったりしない、俺たちが初めてで最後になる、俺たちだけの、おしまいへの道。その時の状況、俺たちの体温、表情、台詞、総てここで葬るから。

「じゃあ、――で頂戴」

バンの緩慢な笑みに、俺も微笑んだ。カウンター越しに向き合うのをやめて、隣に座る。すると、バンが急に赤い紐を俺に寄越した。「ずっと、いっしょ」まるで何も知らない子供の様、バンは笑った。俺は出来る限り優しくバンの手を取り、小指にその紐を結んでやった。そして、俺の小指にも。

そして"おまじないのくすり"の袋を開けて、中身を2つ、口に含む。そのままバンの頬に手を添え、そっと唇を合わせる。バンは早く早くと俺の唇を自分の舌で叩く。嗚呼、バン。お前が望むなら、すぐにやろうじゃないか。くすりを1つ、バンの口に渡す。その後は簡単だった。互いに合図せずとも、呑み込むタイミングは同じだったのだから。


雨が降っていた。轟々と鳴り響く雨音が、俺の耳を塞ぐ。


「愛してる、レックス」

「愛してる、バン」


世界の色が混ざって、黒になる。バンの色も、俺の色も、吐いた血の色も、2人倒れ込んだ床の色も、最期に見えた俺たちを結ぶ赤い紐の色も、どちらのと分からない涙の色――涙の理由は、きっとこの結末しか選べなかった悔しさと、幸せ――も、全部、1つになる。

やがて、物音もしなくなって、雨音だけは変わらない。2人を結ぶ赤い紐がいらない程、2人はほぼ重なり合うようにして倒れ、吐いた血も涙も体温も全部共有して、幸せそうに微笑んでいた。




――――
今までとは少し違って、おくすり系心中でした。マイナーチェンジ。
それと、『※夏目漱石「こころ」より』です。あの作品は本当に考えさせられます。大好きです。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:こんな世界壊してやる



「バン。世の中は実に不平等だ」

時計の音が鳴る。レックスは、やけに落ち着いた瞳で俺を見つめていた。その声は酷く自棄的な雰囲気を纏っているのに。

「なんで、そう思うの」

俺が問うと、レックスは1枚のプリントを俺に差し出した。世界地図が何色かに分けられている。オーストラリアやカナダ、北欧やヨーロッパは青いのに対し、アフリカの方はオレンジや赤に染まっている。アジアは、そもそも染まってすらいない。一体何を指し示しているのか。アイコンタクトで問うと、レックスは微笑んで俺に教えてくれた。

「それは、同姓婚が認められているか否かの地図なんだ」

言われて世界地図を見直すと、確かに、と思う。アフリカ辺りは宗教の関係上、認められていないのだろうか。だとすれば、赤は否定している。青は・・・・・・

「青が、同性婚を認めている国々。じゃあ、染まっていない国々はなんだと思う」

「・・・・・・そもそも、同性婚の問題に触れていない、とか?」

正解だ。レックスは微笑んで、俺の頭を撫でてくれた。でも、その撫でる力はいつもより弱くて、俺を見つめる瞳もどこか虚ろだ。

「アジア――いや、大半の国が、まだ問題に触れようともしていないんだ。自分たちがマジョリティである事に何の疑問も感じず、ただその状況を甘受し、マイノリティを受け入れず、排他しようとする」

ぼんやりと、レックスが何を言いたいのかが分かってきたような気がした。きっとレックスも俺も、マイノリティと言われる立場にいるんだ。それは、今まで培ってきた経験、今の恋愛状況、色々な条件が合わさっている。――どうして、同性婚は、同性愛は認められないのか。生物学的に無意味?女の方が良い?そんなの違う。人間の純粋な本能の前に、どんな学問も意味を成すとは思えない。もし人間が本能を抑えられるなら、戦争も紛争も何も怒らず平和だろう。それが出来ないから、戦争は絶えないんだ。

ただ、好きになった人が同性だった。それだけで、俺たちはこうやって本音を隠して、こそこそと生きなくてはならない。男と女、そう違いはないだろう。ただ身体のパーツに違いがあるだけだ。人間が犬を見た時に、オスとメスの区別がすぐに出来るか?出来ないだろう。きっとそうなんだ。動物から見たら、神から見たら、男も女も等しく人間。俺たちが歩んできた『進化』という城が、それを拒んだせいで、男女は明確に区別されるようになってしまった。

そんな世界になってしまったのは、どうしてだろう。それは、分からない。俺たちに出来るのは、来世に願う事。それだけだ。

「さぁ、バン。同じ景色を見に行こう。きっと俺たちなら出来る。新しい世界は、こんな、無味乾燥で残酷な世界にならないようにするんだ。俺たちが、なおすんだ」

コックピットのスイッチを押す。大げさな音を立てて、サターンが飛び出す。ねぇ、レックス。俺、レックスと同じ景色が見えるよ。レックス、貴方はずっと寂しかったんだね。だからこんな事をするんだ。だから、俺が傍にいてあげるよ。1人は、きっと苦しかっただろうから。




――――――
無償の愛とか色々突っ込んだ結果がこれ。
作中の地図は授業で習ったのを思い出して引用しました。ぐーぐる先生で『世界地図 同性婚』と検索すると実物が見れますよ。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:悲願



朝日が俺たちを照らしていた。カーテンの隙間から届く朝日に、俺は目を開ける。隣ですやすやと寝息を立てるバンは起きる気配もなく、俺が動く音とアナログ時計の秒針の音しか聞こえなかった。

隣で眠るバンの胸が上下する。リズムの乱れないその寝息は、子供のそれそのものだ。普段いくら着飾っても、子供には思い試練を乗り越えたとしても、やはり人間は、寝ている時は無防備なのだろう。

「なぁ、バン」

声は届かない。バンの寝息が、妙に俺の心を落ち着かせる。バンの口は半開きで、目は閉じられている。この目から見える景色は、どれほど大きいのか。きっと、総てのものが美しく見えるのだろう。空はどこまでも続き、人は笑顔で、夕暮れには哀愁を見、夜なんて見ないで眠るのだろう。嗚呼、俺とは本当に真逆の存在だ。いつからだろう。朝日を憎み、空の大きさに恐怖し、夕暮れに自分を重ね、夜を見つめるようになったのは。

太陽がどんどん高い位置に昇っていく。バンは太陽だ。きっと、どんどん高みに昇っていって、俺なんて見えないぐらいに高いところに行くんだろう。俺はどんどん深みに嵌っていく。それはバンが高みに昇るほど、だ。バンが太陽に近づき美しくなる程、俺は人の絶望に近づき汚れていく。

そんな俺がバンの隣で眠り、共に朝を迎え、愛を育む。大罪だな、と1人自分を嘲笑った。俺はバンの隣にいていい存在ではない。俺は1人で生き、死ぬべきだったのだ。どこで間違ってしまったのだろう。

「それは、生まれたことさ」烏がベランダのフェンスの上に立って言った。「生まれた時点で、間違ってるんだよ」嗚呼、そうだな。そもそも生まれて来なければ良かったんだ。生まれなければ、俺はこんな苦しい思いをしないですんだ。こんな、辛い現実に、愛に、気付かずに済んだ。だが、逆もある。俺は生まれたから、愛を知れた、信頼出来る仲間を知った、この世を知った、それは生まれてこなければ、分からないことだ。それに、生まれなくては、バンと会えないではないか。そう考えれば、生きるのも悪くないかもしれない。――――かも、しれない。けど。

「なぁ、バン」

呼びかける。勿論返事はない。不思議と笑みが零れた。傍からみたら、きっと眉も下がって、悲しそうにしているのかもしれない。でも、笑みは確かに零れていた。

「このまま、お前の目が開かなければいいのにな」

そうすれば、お前は俺を見ないで済む。バン、お前には仲間がいる。俺がいなくても、生きることの素晴らしさを教えてくれる仲間がいる。俺にはいなかった。だからかもしれない。仲間がいるお前が羨ましくて、傍で見ていたくて、一緒のところまで来てほしかった。それが本人に良い影響ではない事ぐらいは理解していた。それでも、それでも。

「そうすれば、お前は俺から逃げられる」

バン、なぁ、バン。お前のその純真な目で俺を見ないでくれないか。その目で見られる度に、俺はしてはいけない期待をしてしまうから。お前が俺と一緒にいてくれるなんて、してはいけない期待をしてしまうから。

太陽はいよいよ、部屋の窓から見えなくなってしまった。俺はたったそれだけの事なのに発狂しそうになって、ただただバンの頭を撫でるしかなかった。そうでもしないと、存在が、なくなりそうな感じがして。



――――――
毎回書いてる事が同じになってきてるよね???このクズくし

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:心中&メリバ



春が来た。
柔らかく降り注ぐ光が、俺の頬を照らして朝を告げる。モノクロの簡素な部屋に映える赤いベストに手をかけて、木製のアナログ時計は開店の1時間前を指していた。
着替えて、目の前の階段を降りる。1階はちょっとした喫茶店になっていて、いつも通り俺は携帯を取り上げて連絡を待つ。
今日も閑古鳥で賑わうであろうあの店、BlueCats。まぁ、繁盛されても困るんだがな――あの店は2つのカモフラージュをしているから。1つはアングラビシダス、1つは――
<<もしもし>>「ああ、拓也か」<<夕方、そこ使えるか?>>「いつも通り、閑古鳥だからな」<<了解。じゃあ、17時にまた>>
イノベーターに立ち向かう者の隠れ場。それが本当の目的でもある。だから、繁盛されても困る。
形だけの仕込みと掃除を終えて、カウンターに座って本を読む。時計は開店時刻を指していた。

そんな時計が流れて17時になる。カランカランとドアチャイムが鳴ってやって来たのは――
「拓也。その子は」「山野バン君だ」「山野?まさか」「ああ、博士の、息子だ」
俺は、その少年から目を離せなかった。


夏が来た。
自動的に切れた冷房を恨む。嫌な汗が首筋と胸を伝っていた。赤いベストに目もくれず、バスルームのドアを開けて身体の汗を流す。今日も閑古鳥の鳴く店を思いながら。
――――あいつ、今日も来るのか。
脳裏に浮かぶ、青とオレンジの服を着た少年。春に出会った彼は、ここ最近ずっとあの喫茶店に来る。彼のお陰で、お店のレパートリーにソフトドリンクが追加された。彼はLBXが好きでたまらないらしく、毎日決まったところでLBXのメンテをしている。
お湯を拭って、いつもの服を着る。時計は開店時刻を30分過ぎたところ。のんびり仕込みを始める。本当の開店まで、あと何時間だろう。早く、早く彼に会いたい。

「レックス」
ふと目を上げれば、いつもの様に彼が来ていた。いつもの位置で、いつもの道具を広げて。
「ああ、来たのか。オレンジジュース、飲むか?」
「ありがとう、レックス!」
彼は、俺の名前が好きなのかという程に俺の名前を呼ぶ。それが可愛らしいと感じられて、心のどこかで芽生えた心に俺はそっと蓋をしようとしていた。嗚呼、彼はまだ純真で、俺のような奴には触る事も許されない。そうは知っていても、俺は――――


季節は流れていく。
夏の騒がしさは終わりを告げ、静けさに眠る季節が来る。
嗚呼、やめてくれ。静かだと、聞こえてしまうんだ。
自分の声が、欲望の声が。


秋が来た。
使われなくなった冷房は少しずつ埃を被りはじめた。いや、この部屋自体が埃を被っている。滅多に帰らなくなったからな、と苦笑する。シーカーの一員として、昼夜を本部で過ごす事が多くなったからだろう。
「レックス-、どうしたの?」
今日は日曜日だからだろうか、朝から俺の隣にはバンがいる。幸せだ。朝から愛おしい者の顔と声を感じる事が出来るなんて。
「大分埃が溜まってきたから、掃除しようかと考えていたんだ」
「そう?俺にはそうは見えないなぁ」
そう言って無邪気に俺のベッドにダイブするバン。ピク、と心のどこか――いや、欲望が反応する。何度も夢で見た、あのシュチュエーションと同じ、今。ベッド、よれたシーツ、荒い声。
「部屋の主には分かるんだよ」
静かに、静かにベッドの横に座る。嗚呼、きっと抑え切れてない。バンの顔が、それを示している。少し緊張した様な声、握られた拳、必死に何かを言おうとする唇、上気した頬。
「バン」
名前を呼ぶ。嗚呼、俺の声も熱に浮かされている。夏の暑さが残っているのかもしれない。まだ太陽が昇っているから。
バンは俺の隣に来て、何も言わずに俺に抱きついて「大好き」と言った。心が、欲望が、本能を刺激して、俺は――――
届かないものだと思った純真に、手を伸ばしてしまった。その罪の重さに、責任の重さに気付かず。


冬が来た。
夏の余熱も消えて、その寒さに凍えて朝を迎える。隣に感じる微かな体温は、今にも消えてしまいそうで恐怖さえ感じる。
「起きろ、バン」
不安だった。バンが、消えてしまいそうで。バンはゆっくりと身を起こして、俺を見つめて微笑む。バンは俺に依存している。それは周知らしい。しかし、本当に依存しているのは俺なのだろう。
――1人で、過ごしたかった。復讐は、汚いと知っていたから。
――限界だった。誰か、体温が欲しかった。ずっと、凍えていた。
「ねぇ、レックス。俺はいつもレックスの隣にいるよ」
バン。それは嘘だ。いくら俺が足掻いても、バン。お前はどこか遠いところへ行ってしまう。なぁ、バン。それならいっそ。
「なぁ、バン。海に行こう。冬の海もオツなもんだ」

チャプ、海に脚を浸す。ずぶずぶ、どんどん沈む。
「レックス、俺、流されそう」「大丈夫だ、ちゃんと結んでるからな」「ねぇ、レックス」「なんだ」「ちゃんと、捕まえててね」「勿論」
小指が微かに痛い。良くみたら鬱血していた。でもそれはバンも同じで、赤い小指から伸びる指が互いを縛る。まるで、アフロディーテと エーロスを結んだリボンのように。
「バン」「なぁに、レックス」「愛してる」「俺も大好きだよ、レックス」「バン・・・・・・」
嗚呼、バン。俺は最期まで欲張りだ。お前の知らない愛を、お前に永遠に求め続ける。生きていても死んでいてもそれは同じだ。ずっと、お前に餓え続ける。俺は、ずっとお前を離せない。
だから、お願いがあるんだ、バン。「     」と言ってくれ。お願いだから――


春が来た。
俺たちの上に、柔らかく降り注ぐ光。いつかに感じたそれと同じだ。バンは微笑んでいた。俺も微笑んでいた。紐は解けなかった。途中何度も離れかけたが、この紐が俺たちを永遠に結び続ける。キツく結んだからな、と笑う。バンも笑っていた。
俺たち、永遠に一緒だな、と呟く。バンも、そうだね、と呟いた。




「ここで臨時ニュースです」「先日、行方不明になっていた男性と少年が」「××海の海岸で見つかりました」「2人の指は赤い紐で結ばれており」「恋愛に行き詰まっての心中だと」「警察は捜査を進めています」


「次のニュースです」


―――――
レクバンで春夏秋冬でした。急展開でした。くそg
1年ぐるーっと回ってまた春と見せかけて、春なんて来ません。来ません。
夏シーンの『オレンジジュース』は勿論意識してます。変態。
某フォロワーさんとレクバンの季節になった時から、ぼんやりこんな構想を考えていたり。「レクバンで春夏秋冬よくね??」
最後のニュースは、勿論そういう事です。「次のニュース云々」って入れたのは、本人たちからは大事でも、結局他人からしたらたかが30秒弱程度の事っていうレクバンに対する?皮肉?でした??

そんな感じでした。レクバンイズフォーエバー。

Twishortより



お題・レクバン   雰囲気:結局報われない   テーマ:レックス拾った



今でも夢に見る、その影から、俺はまだ離れられないでいる。


雨が降っていた。紺色の傘を持ちながら、河原の傍を歩く。あの川に流れる水は、いずれ海に混ざっていくのだろうか。あの川を辿って海に行けば、あの人と同じ所に融けられるんじゃないか。あれがどこに墜ちたかなんて知らないけれど、海のどこかに墜ちたのならば、きっと会えるような、そんな、錯覚、無駄で哀れな希望。

土砂降りとも言わないけれど、程々に強い雨の中、靴の中の靴下は濡れ、鞄を濡らしたくないが為に、肩はびしょ濡れだ。嗚呼、気持ち悪い。早く家に帰りたい!

自然と歩く速度は速まり、家へ向かう道が妙に長く感じられる。嫌だ、嫌だ。1人でいると、あの時を思い出しそうで、気が狂う。そうだ。サターンが墜ちて、その後宇崎さんからあの人の死を聞かされた時。あの時と同じような雨が、今、降っている。雨音に消された、宇崎さんの顔。消えなかったのは、その言葉。「檜山は―――」

「にゃあ」

ハッと、目線を声のする方へ向ける。猫だ。俺は首を傾げた。紺色の毛並みを見ればロシアンブルーと思えるが、そんな単純な紺色だとは思えなかった。ノスタルジーを秘めているようなその色に、少し濁ったような赤の瞳。まるで、あの人の瞳の色。

「――――レックス?」

知っている人が聞いたら、とうとう俺は気が狂ったと思われるかもしれない。でも、俺はその猫がレックスにしか見えなかった。そうだ!あの紺色は、レックスのコートの色!少し濁った赤い瞳は、レックスの瞳の色だ!

「レックス!」

そんな訳ない、と否定する脳裏の言葉を、俺は排除した。嗚呼、レックスだ。まるでレックスが転生して帰ってきてくれたみたいに思える!しかも猫は、レックスと呼ばれた時に「にゃあ」と返事をした。嗚呼、レックスが、帰ってきた。帰ってきたんだ――

「おかえり、レックス。さぁ、家に――」

・・・・・・レックスを抱き抱えようとした手を、俺は止めてしまった。そうだ、我が家ではペットは飼えない。勿論その理由は、家にある精密な部品たちにある。猫の毛なんて、以ての外だろう。でも、それでも。レックスは、俺の傍に置きたい。

じゃあ、どうする?堂々と相談しても、きっと返して来なさいでお終いだ。下手したら、俺はまたカウンセラーさんと話す羽目になるかもしれない。何も、おかしい事はないし、話す事もない。だから、正直カウンセラーさんとはあまり話したくなかった。

――――だったら、答えは1つだ。

「さぁ、家に帰ろう。レックス。暖かいミルクを出してあげるから」

さぁ、ペットショップに行こう。必要最低限の物は買ってあげなくちゃ。それに、他にもやる事はある。家とは真逆の方向へ足を進める。俺はCCMを開くと、母さんに「ごめん。学校に忘れ物しちゃったから取ってくるね」とメールをした。

「堂々と飼えないなら、こっそり飼えば良いんだ!」


作戦は、思いの外上手くいった。
母さんにレックスの事はバレそうにないし、生き物がいる事さえ分からないとみえた。レックスはちゃんとご飯を食べてくれるし、俺と2人の時はいつも傍にいてくれる。

「ただいま、レックス」

にゃあ、といつも通りレックスがベッドの奥から出てきて、俺の隣に座る。ちゃんと洗ってやったら、その毛並みは酷く綺麗で、目やにのついていた目はパッチリとした、でもどこか憂いのある目になった。レックスは自分でもグルーミングをするらしく、ちょくちょく自分の身体を舐めている。

「今日ね、ペットショップの店員さんに色々教えてもらったんだ。猫って爪とぎが必要なんだね。俺、知らなかったよ。でね、店員さんがお勧めのを教えてくれたんだ。ほら、これだよ」

ビニール袋からそれを取り出せば、レックスは嬉しそうにまたにゃあおと鳴く。人間の頃よりも、随分と感情を出すようになったなぁ、と思う。まぁ、俺にとっては嬉しい事だけれども。

「さ、ご飯あげるね」

ショルダーバッグを置いて立ち上がる。するとレックスは、いつもと違う行動を取った。部屋から出ようとドアを開けると、自分も出ようと着いてくるのだ。

「ダメだよ、レックス。レックスの事は秘密なんだから」

クスクスと笑みを零す。でもレックスは、赤い瞳で俺を見上げて、何かを訴えているようだった。まるで、俺を出してくれ、と言わんばかりの瞳に、俺は――――

「駄目だ」

自分でも驚くぐらい、冷たくて低い声だった。

「レックスは、秘密なんだから」

違う。それは建前だ。本当は離したくないんだ。俺の傍に常にいてほしい、どっかに消えないでほしい。一度離れられてしまったら、もう会えないような気がして。もう、離れたくない。一度離れてしまったせいで、離れた時のあの絶望と焦燥を、知ってしまったから。

レックスは暫く黙っていたが、やがて尻尾を落として、とぼとぼとベッドの上に戻った。

「レックス・・・・・・」

レックスは顔をあげ、また俺の顔を見つめる。今度は「大丈夫だ」と言われた。でも、俺の不安は晴れない。レックスは何をしたいんだろう。結局その答えは分からずに、いつも通りのご飯をあげるしかなかった。


今でも夢に見る、その影から、俺はまだ離れられないでいる。

だから、また俺は過ちを犯した。


あの日から、数日が経った。レックスはすっかり外に出たがらなくなり、いつも俺の傍にいた。俺にとってそれは嬉しい事だけれども、それはどこか俺を安心させようとしているようだった。死を感じた親が、子と最期の時を過ごすような、その時の親の目を、レックスはしている。

俺はそれに対して、何も言えなかった。それを言ったら、俺とレックスの関係が崩壊してしまうように感じられて、言えなかった。

今日も学校が終わって、俺は鞄を掴んで疾走する。レックスと再会したあの河原を越えて、いつもの商店街を越えて―――いつも通り、走ろうとした、けど。

商店街の一角、妙な人混みに俺は足を止めた。そこは、あの喫茶店、BlueCatsの前。

「惨い事を・・・・・・」「可愛そうに」「自転車とすれ違ったんだって?」「なんでも、猫が自ら飛び出してきたんだってよ」「即死だな、これ」「それにしても、この猫、本当にロシアンブルーか?」

ドクン。心臓が、跳ねる。どうしたんですか、と擦れた声で聞くと、親切なおじいさんは「猫がな、自転車に轢かれてしまったんだ」と目を伏せながら教えてくれた。

まさか。まさか。そんな、事。人混みをかき分けて、その猫を見ようと藻掻く。違う、きっと、どっかの野良猫だ。ミソラは、野良猫が多いから。きっと、きっと――――


『紺色の毛並みを見ればロシアンブルーと思えるが』『そんな単純な紺色だとは思えなかった』『ノスタルジーを秘めているようなその色に』『少し濁ったような赤の瞳』『まるで、あの人の瞳の色。』

『あの紺色は、レックスのコートの色!』
『少し濁った赤い瞳は、レックスの瞳の色だ!』


「ああぁあああぁあぁああ!!!」絶叫がこだまする。なんで、なんで、レックス!なんで、また俺から離れるの!?折角、繋ぎ止めたのに!また!俺から離れるの!?どうして!!

ぽつり、と俺の頬に当たった雨はやがて激しくなって、俺とレックスを濡らす。雨にしては、随分と暖かいそれが頬を伝う。おかしいな、身体に当たる雨はこんなにも冷たいのに、頬は、頬を伝う雨は、どうも暖かくて、むしろ、熱い。

「・・・・・・おうち、帰ろうか、レックス」

ぐったりとしたレックスを抱き抱える。嗚呼、こんな雨に打たれちゃったからだ。早く、どうにかしないと。でも、治したら、またレックスは俺の元を離れる。なら、いっそ――――

家とは逆の方向へ、歩く。


『この先、ミソラ名物の絶壁の海岸があります!』



―――――――
ラスト。本当にすみませんでした。いや、本当に。
最初はほのぼのさせる気だったんです・・・・・・。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:アンドロレックス



あの日から、十年の時が経とうとしていた。
24才になった俺は、TO社の研究室で父さんと一緒にLBXの研究をしている。二度とあんな事が起きないように、安全で、確実なセキュリティで、それでいて、子供も大人も楽しめるようなLBX。それが俺たちの目標だ。

「父さん」

新しいLBXの設計図を見せれば、父さんは引き出しから眼鏡を取り出して――いつかに俺があげた眼鏡。本人には伝えていないけれども、老眼鏡だ――、それを読み始めた。

「どこかで、似たLBXを見た気がするな・・・・・・」

嗚呼、父さん。時間が流れるのって早いんだね。十年。確かに、何かを忘れるには十分過ぎる時間かもしれない。俺も色々な事を忘れている、それは仕方のない事だし、それがあるから前に進める。

でも、父さん!俺は忘れてなんかいないよ!だって、忘れられないもの!父さんにとってあの人は憎むべき、忘れるべき存在だったかもしれないけれど、俺にとってあの人は大好きな人で!一生忘れられない人なんだ!

「はは、気のせいじゃない?」

嘘。嘘だよ、父さん。そのLBXは、十年前、1台だけこの世に作られ、俺の手によって壊されたもの。赤い身体、爆発的な攻撃力、歪んだその力の矛先は、一体どこだったのか。それは世界だった。でも、俺は世界を終わらせたくなかった。レックスに叫んだ言葉の裏、本当はもっと言いたい事があった。一緒に生きてほしかった。一緒に同じ景色を見たかった。レックスの見ていた世界は、どんなに色あせていたのか。その世界に、色を分け与えたかった。

「そうか。・・・・・・ちょっと攻撃力が高くなりすぎるかもしれんな。どこか削れるか?」

「うん、分かった。削っとくよ」

設計図をまた受け取って、部屋を出る。時計の針は終業時刻をさしていた。


TO社の地下へ続く道を歩く。この道を知っているのは俺しかいない。正確に言えば違うかもしれない。けれど、この道へ入る為の鍵を持っているのは俺だけだ。

最後の重いドアを開けて、暗い部屋の中央へ進む。薄ぼんやりと光っている円柱のマシーンのボタンを押せば、ゆっくりとその円柱は割れて中身が正体を見せる。静かに閉じられた瞳、生やされた髭、懐かしいファーのついたコート。漂う珈琲の匂い。

「レックス」

レックス、貴方は『生きてた』んだよ。レックス。周りの人はみんな「気をあまり落とさないでね」なんて言うけれど、良く分からない。だって、レックスは生きていたんだから。今はこのカプセルの中で寝てるけれど、目を醒ます日は近いんだから。また、あの美味しい珈琲が飲みたいな。研究室の人、珈琲好きな人多いから、喜ぶと思うよ。

「大好きだよ、レックス」

触れた唇が妙に冷たかったのは、きっとこんな暗い場所にいたから。そうだよね?レックス。



―――――
気が触れちゃった系バンさん。勿論レックスは死んだ設定です。
バンが「愛してる」って言わないのは、バンの精神年齢的に言わないと思ったから???
個人的に、まだこのバンは『バン』で、ただ純粋に好きだから、どんな事でも出来ちゃうって設定。
好きだから、何でもしていい。クローンっていう、賛否両論な事だって、善悪ガン無視でやっちゃう。

そんな、バンでした。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:背徳感



この喫茶店を開いてばかりの頃のメニューを、ふと思い出した。子供が来るなんて予想もしていなかったから、ソフトドリンクなんて1つも無かったそれ。冷蔵庫らしい冷蔵庫も無かったし、ジュースなんて文字すらこの店には無かった。

だが、今はどうだろう。

電気屋さんで買った小さな冷蔵庫、中にあるのは良くくる子供たちの為にと常備しているジュース。オレンジ、アップル、グレープとひとしきりの物はその中にある。
特に減りが早いのがオレンジだ。オレンジジュースを好む子が、毎日の様にここに来るから。

「レックス!」

カランカランとチャイムベルが音を立てて、バタバタとその音をかき消すような足音が近づく。バンはいつもここに来ては、カウンターかテーブルでLBXの整備をする。その時に出してやるのが、決まってオレンジジュースだった。

バンからしたら、俺が親切心で出してやっていると見ていているのだろう。バンは、俺の渡すオレンジジュースをいつも美味しそうに飲むし、いつもちゃんと飲み干して帰って行く。そんな純粋な心に、俺はずっと畏怖と憧憬の意を覚える。

――嗚呼、バン。

お前は知らないだろう。お前はジュースを飲んだ後、決まって少しの間、唇が赤くなる。唇が圧迫されるからなのか、飲んだ後に唇を舐めるからなのか知らないが、その赤さはまるで女の口紅のようだ。いや、口紅よりも自然なあたり、口紅よりも質が悪い。

その唇で名を呼ばれる度に、その唇を歪めて笑いかけてくる度、俺の心臓は嫌な音を立てて、頭を過ぎる愚かな妄想に罪悪感を感じる。最近はそれさえも心地よくなってきて、その赤い唇にもっと俺の名前を刻みたい、なんて、純粋なお前に不純を押しつける背徳感に、いよいよ俺の頭はおかしくなりそうだ。

「ほら、いつものだ」

もう何時間前から用意していたオレンジジュースを取り出す。カランと氷の心地よい音が鳴って、バンは首筋を流れる汗に気付かないままそれを飲み干す。赤い唇が、また、俺の名前を――

「ありがとう、レックス」

嗚呼、名前を呼ばないでくれ。その唇に、声に、俺は厭らしい、人間くさい、情けない感情を抱いてしまうから。ぞくぞくと戦慄さえ感じるその様に、俺は欲望を止められない。愚かな妄想がまた頭を過ぎって、もう罪悪感は背徳感に呑み込まれた。


「バン。お代わり、いるか?」




―――――
おまわりさんこいつですなレックスの話。
赤い唇にお尺八とか考えちゃうレックス。本当はオレンジジュースにあれやこれやしちゃう変態レックスの想像もしてたけど、唇の話で十分変態でした。

Piece of cake!(火黒)

2012年09月03日
Twishortより



お題:火黒   雰囲気:青い春



体育館シューズの靴紐を固く結ぶ頃には、目の前でバスケットボールが高く放り投げられていた。

「くっそー、早く試合に出てぇな」

体育館で行われている体育の授業の一環で開催されたバスケ大会。クラスを数チームに分けて行われるそれ、俺たちは壁際で今か今かと出番を待っている。

体育の次の単元がバスケと知った時、短く歓喜の声をあげて拳を握りしめたのは俺だけではなかった。部活以外でバスケが出来るなんて願ったり叶ったりだし、授業が何倍も楽しくなる。

「火神くんと同じチームになれなかったのが残念です」

「まぁ、ゲームバランス的に仕方ないな」

隣で言葉通り残念そうに呟く黒子に笑う。先生からの制約で、俺たちは同じチームになる事を許されなかった。その他にも色々な制約がついてしまったもんだから、黒子はさっきからいじけて座り込んでいる。

「試合は2クォーターのみ、点数は普通1点3Pで2点・・・・・・」

言われた制約を反芻すると、なかなか鬼だなと思う。俺たちでさえこんな扱いなら、キャプテン達は1クォーターのみだとか言われてそうだ。どんなシュートも1点とか、俺には想像もつかない制約がついているかもしれない。

「出番もあまりないですし、正直つまらないです」

「その分、2クォーターで一試合分暴れてやりゃあ良いんだ」

先生に聞かれたら、きっと止められる事だろう。それでも、自分の好きなバスケに対して手抜きなんてしたくないし、それは黒子も同じだろう。いや、何かに熱中している人なら誰でも、だ。それが何かに熱中するという事なんだから、仕方がない。

ブザーの音が、俺たちの雑談を止める。ホワイトボードに貼られた試合表を見れば、次は俺の出番だということに気がつく。赤いビブスを被って、指を少し鳴らす。

「そろそろ行きますか。とりあえずノルマ10点で」

「It's a piece of cake!」

黒子の頭を乱暴に撫でてから、コートに向かう。振られた手に、俺は大きく手を振り返した。




―――――
青春系ホモォでした まる
piece of cakeって表現素敵よね・・・・・・去年習ってからずっと使いたいと思ってて。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:念願の心中



轟々とサターンの崩れる音に、どことなく世界の終わりの様な感想を覚える。勿論世界が終わる事はなくて、俺たちが死んでも世界は関係なく廻り続けるのだか。だが、世界だとか時間だとか、そういう物に対する認識はとても難しい。俺たちが今死ねば、俺たちの世界や時間は止まるのだ。それは、主観的な考えかもしれない。しかし、終わる事に間違いはないだろう。

俺は最期まで罪を犯す。世界を壊して再構築しようとしていて、結局壊せたのは自分の世界だけだ。しかも、その壊す世界の中に、まだ未来ある幼子を巻き込んでしまうだなんて!きっと俺は天国も地獄もない、無に還らされ、二度と転生する事さえ許されないだろう。

隣で微笑むバンに、俺は何とも言えない感情を抱く。嗚呼、俺は何てことをしたんだ。きっとバンには、己のしでかした事の重ささえ分からないのだろう。理解する前に、死んでしまうのだろう。何も知らない、この世の酸いも甘いも何も知らない純真なその目。その目に最期に映るのが俺だと考えただけで、罪悪感と、それを糧にして燃えさかる背徳感に頭がおかしくなりそうだ。

「レックス。俺、嬉しいよ」

嗚呼、そんな純真な目で俺を見るな。この状況でさえ笑みを零せるその心!俺は持っていないそれを、バンは生まれた時から失っていない。生まれた時から、俺たちは交わるべきではなかったんだ。

しかし、交わってしまった。混ざってしまった。バンの純真さに触れた時、俺の中の欲望の方が勝ってしまったのだ。バンを手に入れたい、俺の中に納めたい、その純真な目で、俺を見て欲しい、と!

「俺も、嬉しいぞ」

違う。バンの嬉しいと俺の嬉しいは違う。同じ言葉で表してはいけない。俺は嬉しいは、欲が満たされた事に対する嬉しさだ!言うなればエロス、情熱の愛。バンの愛はアガペー、まさに愛といえる、自己犠牲で、博愛に満ちたその愛。今俺は、その愛を手に入れたのだ。

「レックス。俺、凄くワクワクしてるんだ」

「きっと、地獄で一緒になるから」

自殺は、イケナイ事なんでしょ?と笑うバン。嗚呼、バン。お前はきっと、また生まれ変わって、愛する奴を見つけて、幸せにその一生を終えるのだろう。俺の事なんか、忘れて―――――

なら、せめて今だけ、バンを独占してしまおう。無意識に伸ばした両手はバンを捕らえて、俺の中に閉じ込めた。バンは恥ずかしそうに身をよじったが、抵抗はしてこなかった。

サターンが、俺たちが、いよいよ燃えさかる炎に焼かれようとしている。俺たちは微笑んで、抱きしめ合った。最期だとは思えない笑顔だった。最期だと、思わなかったからかもしれないな、と思う頃には、俺たちの身体はいよいよ意味を成さなくなっていた。



―――――
大好きです、心中。

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:甘い……かも



「あの人は、死にました」
「世界平和を望む時、『あの人の死』は必須条件でした」

その時何が出来たのか。それは、世界平和だとか人権だとか、『答えのない問題』と言われるジャンルにカテゴライズされると俺は思う。ずっと考えないと分からない、ずっと考えても分からないかもしれない、終わりのない、まるでぐるぐると続く螺旋の様な問題。

――多分、俺、言葉を探してる。

ぽつんと浮かんだ思いは、誰にも理解されなかった。『おはよう』『こんにちは』『こんばんは』『さようなら』『初めまして』『よろしく』『大丈夫?』『どうしたの』日常的な言葉、その中に埋もれてしまった、大事な言葉を探している。それは、レックスに言いたかった事。言えなかった事。大好き?愛してる?そんな言葉じゃない!もっと身近で、それでいて暖かい言葉を、俺はレックスに伝えるべきだった。

それが分からない限り、俺はずっと心のどこかを沈めながら生き続けるだろう。レックスに伝えられなかったという事実だけでもう潰されてしまいそうなのに、伝える内容が分からないなんて論外。

耳鳴りがする。空を見れば天気が良くなかったから、そろそろ雨が降るのかもしれない。どうしよう、家まで走って帰るしかないか。鞄の中に、傘のある気配はない。靴を履きながら、ぼんやり考える。うんうん悩んでいたら、クラスメートが近くにやって来て「バン、お前傘ないの?」と聞いてきた。俺は頷く。言葉を零したくなかった。零したら、伝えたかった事も零してしまいそうな恐怖があったから。「これ、貸すよ」クラスメートが、紺色の傘を俺の前に差し出す。レックスの髪の色に酷く似た、紺色。

「ありが――――」

呟いた瞬間、俺は一気に視界が開けたような錯覚を覚えた。嗚呼、俺は馬鹿だ。なんで気付かなかったんだ!ずっと探していた言葉、それは本当に身近で、暖かい言葉。俺はずっと、これを言いたかったんだ。灯台もと暗しとはまさにこのこと。

『ありがとう』

レックス、ありがとう。俺にLBXを教えてくれて。美味しい珈琲を飲ませてくれて。色々な人達と会わさせてくれて。俺と真摯に向かい合ってくれて。

ずっと、言いたかった。でも言えなかった。そのままレックスは、帰ってこなくなってしまった。照れくさかった。でも、あの時が最後だと分かっていたなら、言えたのかもしれない。

もう、そんな事を言っても遅いとは知っている。レックスの時間は、もう止まってしまったから。俺の時間は止まらない、どんどん進んで、いずれはレックスを追い抜いてしまう。忘れたくない、忘れられないとは分かっているけれども、あの珈琲の匂い、レックスの時たま見せる屈託のない笑顔、そんな日常的な事は、どんどん忘れてしまうかもしれない、と。……雨が降り始めていた。いつか、雨が急に降り出した時、Bluecatsにお邪魔したっけ。

――――今、気付いた。

日常的な事総てに、レックスとの思い出がある事に、やっと気付いた。それだけレックスは、長い時間を俺に費やしてくれたという事。笑顔が抑えられなかった。不思議と、涙はもう出ない。出きってしまったのかもしれない。

雨は降り続ける。借りた紺色の傘を、俺はしっかりとした力で開いた。




――――――
14歳っていう歳は、まだ基盤を固めてる時期で、その時に色々教えたレックスは、バンの基礎みたいな所に入り込んでて、それはプラスにもマイナスにも取れるんじゃないかな、って。

落下(レクバン)

2012年09月03日
Twishortより



お題:レクバン   テーマ:イカリソウ   雰囲気:なんか落ちてる


宇宙を落ちる夢を見る。飛ぶんじゃなくて、落ちる夢。

「珍しいな」

呟いた言葉は、耳の横を轟々と走り抜ける何かに聞こえなかった。宇宙に風なんてあったのか。違う、ここは宇宙だから、風は無い。隣を、彗星が、小惑星が通り抜けていって、次第に地球が背に近づいてくる。首をひねれば見える、青々とした綺麗なそれに、俺は何とも言えない罪悪感を抱いた。

「人間は、こんな美しいところにいながら、罪を犯すのか」

何て、陳腐な台詞。そうは思いつつも、口を割った言葉を否定はしなかった。

俺は次第に宇宙から見放され、地球に落とされる。轟々と走り抜ける何かは風に変わった。青々しいものは地球から空になった。何となく、悲しい印象を覚える。あんな美しいところにいれたのに、何故俺は落ちているんだろう。重力とはまるで、人間に対する罰だ。

「レックス」

呼ばれ、上を見上げれば、あれ程愛おしいと思っていた存在がいた。しかし俺とは違い、落ちてはいない。悠々と空を飛んでいるのだ。重力なぞ無いと言った様に、無い翼で俺の上を飛んでいる。

「何で、レックスは落ちてるの」

嗚呼。不思議と、理解が出来た。これは、俺が縛られてしまったからだ。人間の、ありとあらゆる感情に縛られ、そのまま死んだからだ。俺は、未だその呪縛から解放されていない。

「それはな、バン。お前があまりにも上手に飛ぶからだ」

お前は、そんな俺とは正反対だ。ありとあらゆる感情に縛られず、常に前に進むんだ。たとえ縛られそうになっても、助けてくれる仲間もいる。俺は、それがなかった。確かに充実した日々だった。その中に感じていた空虚は、きっとそれなんだろう。

「嗚呼、バン」

お前があまりにも綺麗に飛ぶから、俺はどんどん落ちてしまう。お前が呪縛から解放される程、俺はこの空を落ちていくんだ。

ふいに、俺の手がバンの頬に触れた。艶やかで、滑らかで、愛おしい、その頬。その頬に触れた途端、バンの翼は俺の呪縛に縛られた。

バンも、落ちはじめた。不思議と、今まで感じていた空虚がすっと埋まるのを感じた。罪悪感の裏、確かに感じる歓喜の思いに、俺の落下速度はとうとう最高潮に達する。

「レックス」

バンの手が、俺の頬に触れる。バンの指先が、濡れていた。それは俺の涙なのか、さっきから降り始めた雨なのか。分からない、急に降り始めた雨は俺とバンの落下速度を等しく速める。美しい空は姿を隠し、俺の目を曇らせる。

俺の目からふいに、薄紫の小さな花が伸び、バンの首に絡みついた。小さく上品な花だが、俺はその花の花言葉を知っていた。次第にそれはバンの両目を覆い、そのまま俺の目さえも覆う。

「ずっと、一緒だ」

花に塞がれようとしている口から、言葉を漏らす。すでにバンの顔は見えない。ただ、笑ったような雰囲気が、俺の最後に感じたものだった。



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ぼくのかんがえたれくばんです まる
お題の絡め方が下手くそすぎて

惚気話(高緑)

2012年09月03日
Twishortより



お題:高緑  雰囲気:甘くしたい


真ちゃんは、部活の時はあまり笑わない。3P決めたってスクリーンを突破したって、それが当たり前だと言った感じで何も言わない。

「勿体ないよなー」

思わず口にした思いは、ちょっとだけ届いたらしい。しかめっ面で「何がだ」と問う真ちゃんに答える。

「真ちゃんって笑うと凄く可愛いのに、勿体ないなぁって!」

リヤカーに乗ってる真ちゃんにも届くように、わざと大声を張り上げる。自転車を漕ぐ脚に喝を入れ、スピードをあげた。

「何を言っているのだよ」

後ろから飛んできた鋭い声に笑う。声音から察せられる、照れてる事やそれを隠そうとしている事。総てが可愛くて、笑みが零れる。

「だってそうじゃーん!」

夕暮れが眩しい。信号がタイミング良く青になったのを喜びながら、自転車を漕ぎ続ける。

「俺の――は、―――知って―――――」

隣を猛スピードで走っていった車のエンジン音に、真ちゃんの声が飛ばされてしまった。その音にも負けないように、叫ぶ。

「なんって言ったの-!?」

「俺の笑顔は!お前だけ知ってればいい!」

交差点は通過して、道路の最中。動きを止めたリヤカーに、真ちゃんはきっと疑問を抱くだろう。

「反則過ぎるでしょ、それ……!」

自転車から降りて、真ちゃんの頬に唇を押しつける。外だから、と我慢出来た俺を誰か褒めて!

真ちゃんの頬はいよいよ赤くなる事の際限を知らなくて、「早く漕ぐのだよッ」と叩かれた額に俺は幸せしか感じなかった。


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あかんかったですごめんなさいごめんなさい下手くそですあっばばばぎp

Twishortより



お題:黄黒   雰囲気:甘くはない


いつも飲むスポーツドリンクの隣、見慣れない商品があるのに気づいて目を留めた。『野菜いっぱい シークヮーサーミックス 期間限定』と書かれたそれは、見慣れた紙パックの野菜ジュースで。

「黒子っち、それ飲むんスか?」

売店の人混みの中、黄瀬くんはのんきにそう僕に問いながらそれを取った。何となく意外なような気がして、思わず

「黄瀬くん、そういうの飲むんですね」

と聞いてしまった。

当の本人はあはは、と笑いながら手早く会計を済ませ、まずはここから出るっスと呟いた。僕も続いて会計を済ませて、黄瀬くんの影を追う。

「……俺、こーいう味好きなんスよね」

ぼんやり空を見上げて、さっき買ったシークヮーサーミックス味を飲みながら黄瀬くんは言った。つられて見上げた空には、大きな入道雲が1つ。

「後味がなくて、次のものにひょいって移れちゃうような、軽い味が」

どことなく、それは自分の事を言っているんじゃないかと思える。ふと思ったその言葉の意味が、自分でもまだ理解出来ない。ただ、まるでそれは執着をしない黄瀬くんの様に思えた。

なんで黄瀬くんに『執着をしない』という評価が下されているのかは分からない。でも、それは常日頃の行動の断片から来るんだろう。大事そうにしていたストラップが壊れた時、笑顔で「壊れちゃったから仕方ないっス」と躊躇いもなくそれを捨てた事、それだけじゃない。

「……何か残らないと、寂しい気もしますが」

「寂しい?」

いつもと変わらない、まるで犬の様に従順で受け身で裏表のなさそうな笑顔。なのに感じた恐怖とも哀情とも言えぬこの感情は、一体。

「寂しいなんて、どこに感じるんスか?寂しくなるぐらいに、長い期間いる事自体ないっすよね?」

嗚呼、と息が漏れる。そういう事だったのだ。

黄瀬くんは知らないんだ。本能かどうかは知らないけれども、どこかに安定するという事を。安定して、それが崩れた時のあの絶望と焦燥の混ざったあの感情を、嫌悪しているのかもしれない。だから、バスケットボールも『模倣』という特技を得たのかもしれない。

総ては推測だ。でも、どうしてもそう考えられてしまう。蝉が僕たちの声を消す、いや、元から無かった。僕たちの声は、夏の入道雲の前には小さすぎて、彼の言葉の裏の真意も聞こえなくなってしまっていた。



―――――
野菜生活のシークヮーサーミックスを飲みながら。

雨音と体温(火黒)

2012年09月03日
Twishortより



お題:火黒


物凄い雨音が、俺の足音さえもかき消していた。夏特有のそれに、俺は眉を寄せる。

「……ゲリラ豪雨って奴か?」

天気予報士さえも予測出来ないそれを、俺が予測出来る訳もない。置き傘だとか折りたたみだとか、そういう物も持たない性分に出来上がった俺を今は恨む。

雨音に止もうとする意志はなく、俺の足は次第にもう走ってしまおうと叫び始める。革靴を床に叩きつけ、一息。家に帰ったら、すぐにシャワーを浴びよう。汗だくだから、それは変わらない事だけど。

「酷い雨ですね」

「……ミスディレするの、やめねぇ?」

「失礼ですね、してませんよ」

黒子は何もおかしくないと言わんばかりの自然な動作で傘を取り出し、外へ一歩。――なんで持ってるんだ、コイツ。

「持ってやるよ」

「え」

ひょい、と傘は簡単に俺の手の中に。薄い水色――黒子の髪の色に酷く似ている――の傘をくるくる回せば、雨が飛んでどこかへ。

「……火神君が忘れただけでしょう」

「持っててやるんだよ、感謝しろ」

雨が俺の、黒子の足音を消す。体温を消す。足跡さえも、消す。でも、黒子の体温だけは不思議と分かる、なんて。



――――
あかくしの胸が胸やけし過ぎて火傷したんで終了
\続かんよ/

Twishortより



お題:おいてけぼり   テーマ:時計



埃を被ったカウンター、テーブル、棚。軽やかに入店を告げるチャイムベルは、今も昔も変わらない。

「レックス」

名前を呼んでも、返事はない。いないからだ。この店にもいないし、この世界からも姿を消してしまった。

「俺、ここで良くLBXいじってたね」

1年前の俺が見える。カウンター、飲めない珈琲を必死で飲んで、ぼんやりとオレンジのかかった灯りの下でLBXをカスタマイズしている俺。

「レックスの時計は、俺のものだ」

1年前の俺が、にんまりと目に光を射して言う。吐き気、嫌悪の催すその顔に、俺は下唇の鉄の味を吐き出した。違う。レックスの時計は俺たちと同じだ!

「レックスは、俺の時計と同じだよ……」

時は等しく人々に時間を与える。そうでなきゃ、神は本当に不公平だ。レックスを置いていってはいけない。レックスは、俺の大事な人だ。

「俺達は離れない。レックスの時計も俺の時計も同じだ。同じ時計を見ているんだ。お前なんかに、レックスは渡さない!」

1年前の俺が笑う。そして、消えた。残ったのは、埃にまみれた俺の指定席と俺だけ。

ほろりと、涙が頬を伝った。俺は何をしてるんだろう。寂しかったのかもしれない。レックスを置いてけぼりにしてはいけない、なんて言っておいて、本当に置いてけぼりになったのは俺の方じゃないか。



――――解説―――――
時計=時間を表すもの。
「レックスの時計は俺のものだ」……レックスの時計、つまり時間は俺のもの。
レックスは死亡したという仮定で、レックスの時の流れとバンの時の流れは違う訳で、
それを『おいてけぼり』と感じたバンさんの一人劇。
途中出てくる"1年前のバン"は、レックスと時を共有する事が出来たバン。
→1年後(ダン戦W)のバンにとって、その頃の自分は凄く幸せで、同時に嫉妬の相手にもなり得るんじゃないかなという妄想。

飲み物(バンヒロ)

2012年09月03日
Twishortより



お題:ジュース   テーマ:恋愛



人が好む飲み物は、その人の性格さえも現すのではないかと思う。

机の上に置かれたジュースとスポーツドリンク。片方のは僕ので、片方は――

「ヒロも眠れないのか?」

バンさんの物だ。有名なスポーツドリンク、簡単に栄養を採れるとかで人気の奴。

「何だか、目がさえちゃって」嘘。ドアの隙間から見えたバンさんの影に、嘘を吐いた。

「ヒロって、いつもジュースだよな」バンさんが微笑む。ジュースが揺れる。子供の飲み物。バンさんとの距離が、オレンジジュースに出ている気がして。

「……スポドリも、好きですよ」嘘2つ。滅多に飲まない。

「そうなのか!少し、意外かも」

意地悪く笑うバンさん。嗚呼、笑わないで。なんて言ったら貴方は笑うでしょうか。貴方が笑ってそのスポーツドリンクを飲む度に、貴方が遠のく気がするんです。出来るなら今すぐ、そのコップを払いのけたい。払いのけて、どうなるワケでもないのに!

夜は更ける。朝日が僕たちの飲み物を照らす。

――――人が好む飲み物は、その人の性格さえも現すのではないかと思う。

照らされたジュースは、まるで色恋沙汰や嫉妬の様、赤く見えた。




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ちょっと距離感系バンヒロバン