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敗北論(花宮)

2012年09月06日
勉強なんて適当にやれば出来ちまう、運動だってちょっとコツを知れば簡単。結局、どれもこれもつまらない。

それが俺の考えだった。今でも変わらない、この世は楽なもので、適当にやれば簡単に上に行けるのだ。出来ない奴の心理が分からない。「お前はおかしい」と良く言われるがそんな事ない。おかしいのは、出来ないお前らの方だ。

そんな生活は、勿論楽しいものではなかった。空虚な楽しみばかり集まって、自分にいらないものばかり蓄積していく。いつからかその重みに負けて、笑わなくなった。自分が何をしたいのか分からなかったのだ。何でも出来る、何でも簡単、どれもこれもつまらない。同じパズルを何度も何度も解いているような倦怠感。

そんな中、俺はバスケと出会った。授業でやった時、最初はどうでも良くて、適当に流そうとさえ思っていた。

――それなのに、おかしかった。
――ボールが俺の指示で自由自在に動き、ゴールに吸い込まれていく様は、まるでパズルだ。

面白い、と感じた。


それから俺はバスケ部に入部した。面白くはなかった。周りはつまらない出来損ないばかり、先輩には良く分からない不気味な奴がいるし、練習も面倒だ。それでもやってみようと思えたのは、あの時感じた感触がまだ手に残って、脳を甘美に振るわせるから。

いつの間にか俺は、二軍のリーダーの様な役割を果たすようになった。ある意味、その時が1番バスケ「を」楽しんでいたかもしれない。人を動かす快感、自由自在に動くボールが綺麗な弧を描いてゴールに入る度、俺はよしっ、とガッツポーズを決めるぐらいだった。

認めは出来なかったものの、楽しい日々だった。バスケ部では俺は一軍になった。それに驚きはしなかったし、そんなの関係ない。自分の好きなバスケを出来れば良かった。そう、思っていた。

それでも、結局神様は残酷で、俺から笑顔を奪い去った。

それは圧倒的だった。俺たち一軍はまるでボロ雑巾のように負けた。相手は「キセキの世代」とか言う奴ら。化け物だった。俺たちの努力は無駄だ、そう示された様で、俺たちは涙を隠せなかった。

畜生。折角楽しくなってたのに、結局これかよ。楽しくバスケが出来ればいいなんて、無理なんだ。勝たなきゃ、駄目なんだ。

その日から俺は、ラフプレーをする事に抵抗を感じなくなった。快感だった。故障した選手たちの苦しそうな顔や、夢を壊された顔は特に。ざまぁみろ、弱い奴がヘラヘラ笑ってんな。ラフプレーをするようになってから、また笑顔がなくなった。バスケにも何も感じなくなった。バスケをやるのは好きだからじゃない、少し得意だから、それだけ。

ある日、いつも通り選手を故障させた。膝だった。バスケの選手にとって膝は大事に決まってる。笑みが止まらなかった。そいつは強い奴らしかったが、膝が壊れた時のあの悲鳴はあまりにも情けなく、チームにも動揺をもたらしていた。

ざまぁ見ろ。お前も俺と同じ目を見ればいい。
俺がこんな思いをしているのに、ヘラヘラとバスケをするなんて許さない。

幾年か経った頃、その選手とリベンジマッチがあった。ソイツは後輩たちを引き連れ俺の前に立ちはだかった。俺がちょっとイジればその後輩たちはみるみるウチに赤くなっていく。可愛いもんだ。お前らの前でもう1度壊してやるよ。そう思いながら、試合に挑んだ、のに。

負けた。何故だ。分からない。アイツはチームを守ろうとして、守られた。何故そんな欠陥のある選手を庇う。とっととベンチに下げてしまえばいいのに。

「また、やろーな」

何が、またやろうな、だ。何で俺が負けるんだ。何でお前のような奴が勝つんだ。実力はこっちの方が上だろう!

――その時俺は、また、敗北を知った。

ただ試合に負けたんじゃない。分かっていた。俺は負けている。試合でも、勝負でも、負けている。アイツは俺のやった事を理解し、それでも俺を受け止めようとした。それが出来るのは、仲間がいるからだろう。俺に仲間はいるか?いや、そんなのいない。あれは全部、駒だから。・・・・・・おかしいだろ、そんなの。出来る奴が勝つのが当然だろ。仲間も何もいらない。俺がいれば、それで、それで!



敗北論
(彼は愚かな立法学者だった)


Piece of cake!(火黒)

2012年09月03日
Twishortより



お題:火黒   雰囲気:青い春



体育館シューズの靴紐を固く結ぶ頃には、目の前でバスケットボールが高く放り投げられていた。

「くっそー、早く試合に出てぇな」

体育館で行われている体育の授業の一環で開催されたバスケ大会。クラスを数チームに分けて行われるそれ、俺たちは壁際で今か今かと出番を待っている。

体育の次の単元がバスケと知った時、短く歓喜の声をあげて拳を握りしめたのは俺だけではなかった。部活以外でバスケが出来るなんて願ったり叶ったりだし、授業が何倍も楽しくなる。

「火神くんと同じチームになれなかったのが残念です」

「まぁ、ゲームバランス的に仕方ないな」

隣で言葉通り残念そうに呟く黒子に笑う。先生からの制約で、俺たちは同じチームになる事を許されなかった。その他にも色々な制約がついてしまったもんだから、黒子はさっきからいじけて座り込んでいる。

「試合は2クォーターのみ、点数は普通1点3Pで2点・・・・・・」

言われた制約を反芻すると、なかなか鬼だなと思う。俺たちでさえこんな扱いなら、キャプテン達は1クォーターのみだとか言われてそうだ。どんなシュートも1点とか、俺には想像もつかない制約がついているかもしれない。

「出番もあまりないですし、正直つまらないです」

「その分、2クォーターで一試合分暴れてやりゃあ良いんだ」

先生に聞かれたら、きっと止められる事だろう。それでも、自分の好きなバスケに対して手抜きなんてしたくないし、それは黒子も同じだろう。いや、何かに熱中している人なら誰でも、だ。それが何かに熱中するという事なんだから、仕方がない。

ブザーの音が、俺たちの雑談を止める。ホワイトボードに貼られた試合表を見れば、次は俺の出番だということに気がつく。赤いビブスを被って、指を少し鳴らす。

「そろそろ行きますか。とりあえずノルマ10点で」

「It's a piece of cake!」

黒子の頭を乱暴に撫でてから、コートに向かう。振られた手に、俺は大きく手を振り返した。




―――――
青春系ホモォでした まる
piece of cakeって表現素敵よね・・・・・・去年習ってからずっと使いたいと思ってて。

惚気話(高緑)

2012年09月03日
Twishortより



お題:高緑  雰囲気:甘くしたい


真ちゃんは、部活の時はあまり笑わない。3P決めたってスクリーンを突破したって、それが当たり前だと言った感じで何も言わない。

「勿体ないよなー」

思わず口にした思いは、ちょっとだけ届いたらしい。しかめっ面で「何がだ」と問う真ちゃんに答える。

「真ちゃんって笑うと凄く可愛いのに、勿体ないなぁって!」

リヤカーに乗ってる真ちゃんにも届くように、わざと大声を張り上げる。自転車を漕ぐ脚に喝を入れ、スピードをあげた。

「何を言っているのだよ」

後ろから飛んできた鋭い声に笑う。声音から察せられる、照れてる事やそれを隠そうとしている事。総てが可愛くて、笑みが零れる。

「だってそうじゃーん!」

夕暮れが眩しい。信号がタイミング良く青になったのを喜びながら、自転車を漕ぎ続ける。

「俺の――は、―――知って―――――」

隣を猛スピードで走っていった車のエンジン音に、真ちゃんの声が飛ばされてしまった。その音にも負けないように、叫ぶ。

「なんって言ったの-!?」

「俺の笑顔は!お前だけ知ってればいい!」

交差点は通過して、道路の最中。動きを止めたリヤカーに、真ちゃんはきっと疑問を抱くだろう。

「反則過ぎるでしょ、それ……!」

自転車から降りて、真ちゃんの頬に唇を押しつける。外だから、と我慢出来た俺を誰か褒めて!

真ちゃんの頬はいよいよ赤くなる事の際限を知らなくて、「早く漕ぐのだよッ」と叩かれた額に俺は幸せしか感じなかった。


―――――
あかんかったですごめんなさいごめんなさい下手くそですあっばばばぎp

Twishortより



お題:黄黒   雰囲気:甘くはない


いつも飲むスポーツドリンクの隣、見慣れない商品があるのに気づいて目を留めた。『野菜いっぱい シークヮーサーミックス 期間限定』と書かれたそれは、見慣れた紙パックの野菜ジュースで。

「黒子っち、それ飲むんスか?」

売店の人混みの中、黄瀬くんはのんきにそう僕に問いながらそれを取った。何となく意外なような気がして、思わず

「黄瀬くん、そういうの飲むんですね」

と聞いてしまった。

当の本人はあはは、と笑いながら手早く会計を済ませ、まずはここから出るっスと呟いた。僕も続いて会計を済ませて、黄瀬くんの影を追う。

「……俺、こーいう味好きなんスよね」

ぼんやり空を見上げて、さっき買ったシークヮーサーミックス味を飲みながら黄瀬くんは言った。つられて見上げた空には、大きな入道雲が1つ。

「後味がなくて、次のものにひょいって移れちゃうような、軽い味が」

どことなく、それは自分の事を言っているんじゃないかと思える。ふと思ったその言葉の意味が、自分でもまだ理解出来ない。ただ、まるでそれは執着をしない黄瀬くんの様に思えた。

なんで黄瀬くんに『執着をしない』という評価が下されているのかは分からない。でも、それは常日頃の行動の断片から来るんだろう。大事そうにしていたストラップが壊れた時、笑顔で「壊れちゃったから仕方ないっス」と躊躇いもなくそれを捨てた事、それだけじゃない。

「……何か残らないと、寂しい気もしますが」

「寂しい?」

いつもと変わらない、まるで犬の様に従順で受け身で裏表のなさそうな笑顔。なのに感じた恐怖とも哀情とも言えぬこの感情は、一体。

「寂しいなんて、どこに感じるんスか?寂しくなるぐらいに、長い期間いる事自体ないっすよね?」

嗚呼、と息が漏れる。そういう事だったのだ。

黄瀬くんは知らないんだ。本能かどうかは知らないけれども、どこかに安定するという事を。安定して、それが崩れた時のあの絶望と焦燥の混ざったあの感情を、嫌悪しているのかもしれない。だから、バスケットボールも『模倣』という特技を得たのかもしれない。

総ては推測だ。でも、どうしてもそう考えられてしまう。蝉が僕たちの声を消す、いや、元から無かった。僕たちの声は、夏の入道雲の前には小さすぎて、彼の言葉の裏の真意も聞こえなくなってしまっていた。



―――――
野菜生活のシークヮーサーミックスを飲みながら。

雨音と体温(火黒)

2012年09月03日
Twishortより



お題:火黒


物凄い雨音が、俺の足音さえもかき消していた。夏特有のそれに、俺は眉を寄せる。

「……ゲリラ豪雨って奴か?」

天気予報士さえも予測出来ないそれを、俺が予測出来る訳もない。置き傘だとか折りたたみだとか、そういう物も持たない性分に出来上がった俺を今は恨む。

雨音に止もうとする意志はなく、俺の足は次第にもう走ってしまおうと叫び始める。革靴を床に叩きつけ、一息。家に帰ったら、すぐにシャワーを浴びよう。汗だくだから、それは変わらない事だけど。

「酷い雨ですね」

「……ミスディレするの、やめねぇ?」

「失礼ですね、してませんよ」

黒子は何もおかしくないと言わんばかりの自然な動作で傘を取り出し、外へ一歩。――なんで持ってるんだ、コイツ。

「持ってやるよ」

「え」

ひょい、と傘は簡単に俺の手の中に。薄い水色――黒子の髪の色に酷く似ている――の傘をくるくる回せば、雨が飛んでどこかへ。

「……火神君が忘れただけでしょう」

「持っててやるんだよ、感謝しろ」

雨が俺の、黒子の足音を消す。体温を消す。足跡さえも、消す。でも、黒子の体温だけは不思議と分かる、なんて。



――――
あかくしの胸が胸やけし過ぎて火傷したんで終了
\続かんよ/