Twishortより
お題:レクバン 雰囲気:背徳感
この喫茶店を開いてばかりの頃のメニューを、ふと思い出した。子供が来るなんて予想もしていなかったから、ソフトドリンクなんて1つも無かったそれ。冷蔵庫らしい冷蔵庫も無かったし、ジュースなんて文字すらこの店には無かった。
だが、今はどうだろう。
電気屋さんで買った小さな冷蔵庫、中にあるのは良くくる子供たちの為にと常備しているジュース。オレンジ、アップル、グレープとひとしきりの物はその中にある。
特に減りが早いのがオレンジだ。オレンジジュースを好む子が、毎日の様にここに来るから。
「レックス!」
カランカランとチャイムベルが音を立てて、バタバタとその音をかき消すような足音が近づく。バンはいつもここに来ては、カウンターかテーブルでLBXの整備をする。その時に出してやるのが、決まってオレンジジュースだった。
バンからしたら、俺が親切心で出してやっていると見ていているのだろう。バンは、俺の渡すオレンジジュースをいつも美味しそうに飲むし、いつもちゃんと飲み干して帰って行く。そんな純粋な心に、俺はずっと畏怖と憧憬の意を覚える。
――嗚呼、バン。
お前は知らないだろう。お前はジュースを飲んだ後、決まって少しの間、唇が赤くなる。唇が圧迫されるからなのか、飲んだ後に唇を舐めるからなのか知らないが、その赤さはまるで女の口紅のようだ。いや、口紅よりも自然なあたり、口紅よりも質が悪い。
その唇で名を呼ばれる度に、その唇を歪めて笑いかけてくる度、俺の心臓は嫌な音を立てて、頭を過ぎる愚かな妄想に罪悪感を感じる。最近はそれさえも心地よくなってきて、その赤い唇にもっと俺の名前を刻みたい、なんて、純粋なお前に不純を押しつける背徳感に、いよいよ俺の頭はおかしくなりそうだ。
「ほら、いつものだ」
もう何時間前から用意していたオレンジジュースを取り出す。カランと氷の心地よい音が鳴って、バンは首筋を流れる汗に気付かないままそれを飲み干す。赤い唇が、また、俺の名前を――
「ありがとう、レックス」
嗚呼、名前を呼ばないでくれ。その唇に、声に、俺は厭らしい、人間くさい、情けない感情を抱いてしまうから。ぞくぞくと戦慄さえ感じるその様に、俺は欲望を止められない。愚かな妄想がまた頭を過ぎって、もう罪悪感は背徳感に呑み込まれた。
「バン。お代わり、いるか?」
―――――
おまわりさんこいつですなレックスの話。
赤い唇にお尺八とか考えちゃうレックス。本当はオレンジジュースにあれやこれやしちゃう変態レックスの想像もしてたけど、唇の話で十分変態でした。
お題:レクバン 雰囲気:背徳感
この喫茶店を開いてばかりの頃のメニューを、ふと思い出した。子供が来るなんて予想もしていなかったから、ソフトドリンクなんて1つも無かったそれ。冷蔵庫らしい冷蔵庫も無かったし、ジュースなんて文字すらこの店には無かった。
だが、今はどうだろう。
電気屋さんで買った小さな冷蔵庫、中にあるのは良くくる子供たちの為にと常備しているジュース。オレンジ、アップル、グレープとひとしきりの物はその中にある。
特に減りが早いのがオレンジだ。オレンジジュースを好む子が、毎日の様にここに来るから。
「レックス!」
カランカランとチャイムベルが音を立てて、バタバタとその音をかき消すような足音が近づく。バンはいつもここに来ては、カウンターかテーブルでLBXの整備をする。その時に出してやるのが、決まってオレンジジュースだった。
バンからしたら、俺が親切心で出してやっていると見ていているのだろう。バンは、俺の渡すオレンジジュースをいつも美味しそうに飲むし、いつもちゃんと飲み干して帰って行く。そんな純粋な心に、俺はずっと畏怖と憧憬の意を覚える。
――嗚呼、バン。
お前は知らないだろう。お前はジュースを飲んだ後、決まって少しの間、唇が赤くなる。唇が圧迫されるからなのか、飲んだ後に唇を舐めるからなのか知らないが、その赤さはまるで女の口紅のようだ。いや、口紅よりも自然なあたり、口紅よりも質が悪い。
その唇で名を呼ばれる度に、その唇を歪めて笑いかけてくる度、俺の心臓は嫌な音を立てて、頭を過ぎる愚かな妄想に罪悪感を感じる。最近はそれさえも心地よくなってきて、その赤い唇にもっと俺の名前を刻みたい、なんて、純粋なお前に不純を押しつける背徳感に、いよいよ俺の頭はおかしくなりそうだ。
「ほら、いつものだ」
もう何時間前から用意していたオレンジジュースを取り出す。カランと氷の心地よい音が鳴って、バンは首筋を流れる汗に気付かないままそれを飲み干す。赤い唇が、また、俺の名前を――
「ありがとう、レックス」
嗚呼、名前を呼ばないでくれ。その唇に、声に、俺は厭らしい、人間くさい、情けない感情を抱いてしまうから。ぞくぞくと戦慄さえ感じるその様に、俺は欲望を止められない。愚かな妄想がまた頭を過ぎって、もう罪悪感は背徳感に呑み込まれた。
「バン。お代わり、いるか?」
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おまわりさんこいつですなレックスの話。
赤い唇にお尺八とか考えちゃうレックス。本当はオレンジジュースにあれやこれやしちゃう変態レックスの想像もしてたけど、唇の話で十分変態でした。
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