本日 109 人 - 昨日 19 人 - 累計 58069 人

オレンジジュース(レクバン)

Twishortより



お題:レクバン   雰囲気:背徳感



この喫茶店を開いてばかりの頃のメニューを、ふと思い出した。子供が来るなんて予想もしていなかったから、ソフトドリンクなんて1つも無かったそれ。冷蔵庫らしい冷蔵庫も無かったし、ジュースなんて文字すらこの店には無かった。

だが、今はどうだろう。

電気屋さんで買った小さな冷蔵庫、中にあるのは良くくる子供たちの為にと常備しているジュース。オレンジ、アップル、グレープとひとしきりの物はその中にある。
特に減りが早いのがオレンジだ。オレンジジュースを好む子が、毎日の様にここに来るから。

「レックス!」

カランカランとチャイムベルが音を立てて、バタバタとその音をかき消すような足音が近づく。バンはいつもここに来ては、カウンターかテーブルでLBXの整備をする。その時に出してやるのが、決まってオレンジジュースだった。

バンからしたら、俺が親切心で出してやっていると見ていているのだろう。バンは、俺の渡すオレンジジュースをいつも美味しそうに飲むし、いつもちゃんと飲み干して帰って行く。そんな純粋な心に、俺はずっと畏怖と憧憬の意を覚える。

――嗚呼、バン。

お前は知らないだろう。お前はジュースを飲んだ後、決まって少しの間、唇が赤くなる。唇が圧迫されるからなのか、飲んだ後に唇を舐めるからなのか知らないが、その赤さはまるで女の口紅のようだ。いや、口紅よりも自然なあたり、口紅よりも質が悪い。

その唇で名を呼ばれる度に、その唇を歪めて笑いかけてくる度、俺の心臓は嫌な音を立てて、頭を過ぎる愚かな妄想に罪悪感を感じる。最近はそれさえも心地よくなってきて、その赤い唇にもっと俺の名前を刻みたい、なんて、純粋なお前に不純を押しつける背徳感に、いよいよ俺の頭はおかしくなりそうだ。

「ほら、いつものだ」

もう何時間前から用意していたオレンジジュースを取り出す。カランと氷の心地よい音が鳴って、バンは首筋を流れる汗に気付かないままそれを飲み干す。赤い唇が、また、俺の名前を――

「ありがとう、レックス」

嗚呼、名前を呼ばないでくれ。その唇に、声に、俺は厭らしい、人間くさい、情けない感情を抱いてしまうから。ぞくぞくと戦慄さえ感じるその様に、俺は欲望を止められない。愚かな妄想がまた頭を過ぎって、もう罪悪感は背徳感に呑み込まれた。


「バン。お代わり、いるか?」




―――――
おまわりさんこいつですなレックスの話。
赤い唇にお尺八とか考えちゃうレックス。本当はオレンジジュースにあれやこれやしちゃう変態レックスの想像もしてたけど、唇の話で十分変態でした。



前の記事
2012年09月03日
次の記事
2012年09月03日
コメント
name.. :記憶
e-mail..
url..

画像認証
画像認証(表示されている文字列を入力してください):