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Rose of garden(レクバン)

(雰囲気が少し中世・・・・・・っぽいかもしれません)




それが禁じられた愛だという事は、理解していた。


この国は宗教色が強い。国民の殆どは同じ宗教で、街には協会や聖書を売る本屋が溢れ、少し適当な店を漁れば簡単に信仰者の仲間入りを果たせるぐらいだ。

よもや国民の常識にまで浸食してきたその宗教の教えは、格段特別なものではない。困っている人は助けなさい、慈善を惜しむな、信じれば救われる、神はいつもあなたを助けようとしている・・・・・・常套句のオンパレード、つまらないとさえ思う。「この教えに感動して入信したんだ」という奴を良く見るが、それならこの宗教である必要はないだろう。

とは言えど、俺も信仰者の1人だ。教会も行くし、集まりにも出る。いつかには、子ども相手に聖書朗読もした。全て、何となく、だった。周りが入っているし、国教とさえなったその宗教に入って損もなかった。

――だが、今俺たちは、その宗教に、苦しめられている。

「レックス」

「なんだ、バン」

「どうして、駄目なんだろうね」

聖書を軽く持ち上げて、バンは悲しそうに俺に向かって笑いかけた。どこかのページが開かれている。俺はそのページの内容が、見ないでも十分に分かっていた。何十回も読んで、何十回も苦しまされた、そのページ。

「『汝、同じ者を愛すべきではない。汝らは後世をつくる義務があるのだから』」

嗚呼、神はエゴイストだ、ヘテロセクシャルだ。世界には同性愛を隠さずに生きていられる奴らもいるのに、何故俺たちは隠さなければいけないのだろう。ただ、生まれた場所がここだった。それだけで俺たちは、こうやって縛り付けられ、苦悩しなくてはならない。

・・・・・・嗚呼、バン。願わくば俺は、この人生を巻き戻したい。どこまでと言われたら、そうだ。生まれる前だ。いっそ生まれてきたくないんだよ。母親の胎内でまだどろどろな自分を、自分の意志で、ぶち壊したい。そしていつか体内から排泄物として出て行くんだ。誰にも分からずゆっくりと俺は出て行って、自然な流産なんて滑稽なショーをしてやる。

バンは俺の手を取って微笑んでいた。2人ベンチに座って、ただこの夜を過ごす。ハーフパンツから覗く脚は眩しいぐらいに白く細く、家族からの寵愛が至るところに散りばめられている。ポケットに仕舞われた懐中時計は良く知る高級ブランドの物だし、履いている靴もシャツも、良く知るブランドだ。それを嫌味なくさらっと着こなせるのは、偏にバンの性格が成せる技だろう。

ここは花園。街が作った町民全員の為の花園とは名ばかりに、実態は放置され荒れ放題で、ごく少数のボランティアによって成り立っているようなところ。

「ここはね、毎年、薄い赤の薔薇しか咲かないんだ」

バンが呟いた。声変わりをまだ迎えていない、ソプラノの様な声が俺の鼓膜を震わす。まるで、野外オペラだ。俺は唯1人の観客。席は俺とバンの分しかなく、バンは静かにオペラを歌い続ける。

「でも、1年だけ、凄い綺麗で真っ赤な薔薇が咲いたんだって。ねぇ、何でだと思う?」

分からないな。そう笑おうとバンを見て、言葉をなくした。その目はあまりにも純真で、それでいて、挑発的だった。黒い目は底なしで、底なしの好奇心と光を帯びている。まだバンは、物事の善悪や常識非常識が不安定なんだろう。バンの部屋を思い出せば、それは容易に分かった。散乱するクレヨン、書かれた1枚の絵、その時見せた恐ろしい好奇心。全てが今、ここに帰結していた。

バンは俺の言葉を待っている。本能が、俺に告げた。嗚呼、昔なら本当に分からなかっただろう。しかし、今なら分かる。そうだな、バン。俺たちに力はない。ただ、互いを引き留める力しかない。世界の前に俺たちは無力だ。この世界が俺たちを邪魔するというのなら、この世界から逃げてしまえば良い。俺はバンの手を取り呟いた。

「来世も、俺は夫でいたいな」


痛みが全身を走る。花園の奥へ奥へと脚を動かす度にどこかが切れ、血が俺の服を汚していく。それはバンも同じだった。あの綺麗な服はボロボロになって、懐中時計はどこかで落としてしまっていた。

この先に何があるかだなんて、俺たちは知らない。ただただ、この世にあるこの「身体」という器に絶望し、この茨の道を歩き続けた。秋風が俺たちの身体を撫でていた。

「あ」

バンが呟いた。突然茨が無くなり、ちょっとした広場に俺たちは放り出された。花園にこんな場所はあったか。いや、マップにもこんなところは無かったはずだ。

バンの目線は、1つに釘付けにされていた。朦朧とする意識を感じながら、その目線を追えば――赤と白の薔薇が、寄り添って咲いていた。

俺たちに言葉は要らなかった。ただ、その傍で転がる2つの頭蓋骨に、全てを理解した。ここが、今だ。俺たちはそっと目を閉じる。怖くはなかった。繋いだ手の体温が分からなくなる頃には、俺たち2人とも冷たくなっているのだから。


「ママー!見てみてー!」

少女が無邪気に叫ぶ。ママと呼ばれた女性は、ゆったりとしたワンピースを揺らしながら少女の声に応じた。

「今年は凄いわね。こんなに綺麗な赤い薔薇、見た事がないわ「まるで、人の血を吸ったような赤だな」「やだ、――の前では言わないでくださいよ」「勿論さ」

少女はなかなか自分のところに来ない両親に痺れを切らし、思わず薔薇を1つ摘んでしまう。少女は摘んだ薔薇と、摘んだ所に出来た僅かな隙間から見える白色に気付いた。「――ママ」

「薔薇って、赤いんだね」




Rose of garden
(They wished the next world.)



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