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生誕の苦しみ(レクバン)

「誕生日おめでとう、バン」

そう言って、俺は冷蔵庫からあらかじめ用意しておいたケーキを取り出した。赤い苺がたくさん乗ったそれを見て、バンは目をキラキラと輝かせて感嘆の声を漏らしていた。

「わぁー、ありがとうレックス!」

この日の為に色々なケーキ店を回ってきた。その苦労がこの瞬間に全て報われたような気がして、俺もつられて微笑んでいた。そういうところがバンの強みだろう。自分の幸せを誰かに与える事が出来て、それさえ自分の幸せとのたまえるのだから。

「お前もとうとう15歳か……早いものだな」

拓也に連れられて来たあの時のバンとは違って、今のバンは随分と力強い顔になったと思う。何がバンをそこまで成長させたのだろう。LBX?仲間?この事件?……だとしたら、ある意味俺が成長させてしまったのかもしれないな、と心の中で嘲笑をこぼす。
子供は子供であるべきなのか、成長するべきではあれど、大人たちや仲間たちが、世界が、或いは俺がバンに期待するそのレベルは、とうに15歳のレベルを越していると思う。才能の1つで、俺たちは彼らに世界の命運という重荷を投げてしまうのだ。まだ彼らは子供で、大人の保護下にあるべきなのに。

「どんどんレックスと同じ、大人に近づいていくんだね!」

ひく、と頬の筋肉が痙攣するのが自分でも分かった。大人?薄汚くて私利私欲に塗れて狡くて傲慢な大人に?お前がなるというのか?
子供の頃の記憶が。大人だ。俺の両親を殺したのは。俺たち兄妹を離れ離れにして深い傷を負わせたのは。そんな大人にいずれかバンもなるというのか。そしていずれ俺を超えていくのか。
……認めない、そんな事。バンはまだ子供で良い。なんなら、永遠に子供でも構わないぐらいだ。

「お前はまだ子供だよ」

「レックス、酷いなぁ。将来はレックスよりも強いLBXプレイヤーになるんだからな!」

苺にフォークを突き立てて、バンはそう俺に叫んだ。その動作はまだ子供なのに、何故かその言葉には信憑性があって。いつかバンも俺を置いてどんどん向こうへ行ってしまうんだろうな、と悲しいような苛立つような傲慢な気持ちが顔を覗かせる。
どうしたら良いのだろうか。俺はバンよりも長くこの世を歩いてきた。俗に大人と呼ばれる存在になでなった。それでも、分からないことが多々あるのだ。子どもでいてほしいという考えさえ俺の傲慢なのだと分かっていながら、この気持ちは止まらない。永遠に子供でいてほしい。「純粋で」「無邪気で」「無知で」「弱くて」「俺が必要な」子供で。

「はは、俺も言われるようになったな。LBXの腕前ではまだまだ負けないさ」

子どもはどっちだ。バンの前に進もうという考えは褒められるべきだ。それでも、認めたくない。永遠に無知で俺の保護下にいる弱弱しいバンでいてほしいのだ。そして俺だけを見ていてほしい。何と言われようとその気持ちは真実だ。

BGMとして流しているラジオで司会と思われる男がハガキを読んでコメントしている。「そうですねー。好きに年齢は関係ないですからね。××さんにはその道をまっすぐ――」そうだ、好きに年齢は関係ない。この気持ちに年齢は関係ない。俺はただ、バンの事を愛しているだけ――――



生誕の苦しみ
(流した涙さえ、この報われぬ恋の道の糧として)


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いもやまさんへの誕生日プレゼントです。
本当におめでとうございます。こんなのをプレゼントとは烏滸がましいのですが、よろしければ……!



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