勉強なんて適当にやれば出来ちまう、運動だってちょっとコツを知れば簡単。結局、どれもこれもつまらない。
それが俺の考えだった。今でも変わらない、この世は楽なもので、適当にやれば簡単に上に行けるのだ。出来ない奴の心理が分からない。「お前はおかしい」と良く言われるがそんな事ない。おかしいのは、出来ないお前らの方だ。
そんな生活は、勿論楽しいものではなかった。空虚な楽しみばかり集まって、自分にいらないものばかり蓄積していく。いつからかその重みに負けて、笑わなくなった。自分が何をしたいのか分からなかったのだ。何でも出来る、何でも簡単、どれもこれもつまらない。同じパズルを何度も何度も解いているような倦怠感。
そんな中、俺はバスケと出会った。授業でやった時、最初はどうでも良くて、適当に流そうとさえ思っていた。
――それなのに、おかしかった。
――ボールが俺の指示で自由自在に動き、ゴールに吸い込まれていく様は、まるでパズルだ。
面白い、と感じた。
それから俺はバスケ部に入部した。面白くはなかった。周りはつまらない出来損ないばかり、先輩には良く分からない不気味な奴がいるし、練習も面倒だ。それでもやってみようと思えたのは、あの時感じた感触がまだ手に残って、脳を甘美に振るわせるから。
いつの間にか俺は、二軍のリーダーの様な役割を果たすようになった。ある意味、その時が1番バスケ「を」楽しんでいたかもしれない。人を動かす快感、自由自在に動くボールが綺麗な弧を描いてゴールに入る度、俺はよしっ、とガッツポーズを決めるぐらいだった。
認めは出来なかったものの、楽しい日々だった。バスケ部では俺は一軍になった。それに驚きはしなかったし、そんなの関係ない。自分の好きなバスケを出来れば良かった。そう、思っていた。
それでも、結局神様は残酷で、俺から笑顔を奪い去った。
それは圧倒的だった。俺たち一軍はまるでボロ雑巾のように負けた。相手は「キセキの世代」とか言う奴ら。化け物だった。俺たちの努力は無駄だ、そう示された様で、俺たちは涙を隠せなかった。
畜生。折角楽しくなってたのに、結局これかよ。楽しくバスケが出来ればいいなんて、無理なんだ。勝たなきゃ、駄目なんだ。
その日から俺は、ラフプレーをする事に抵抗を感じなくなった。快感だった。故障した選手たちの苦しそうな顔や、夢を壊された顔は特に。ざまぁみろ、弱い奴がヘラヘラ笑ってんな。ラフプレーをするようになってから、また笑顔がなくなった。バスケにも何も感じなくなった。バスケをやるのは好きだからじゃない、少し得意だから、それだけ。
ある日、いつも通り選手を故障させた。膝だった。バスケの選手にとって膝は大事に決まってる。笑みが止まらなかった。そいつは強い奴らしかったが、膝が壊れた時のあの悲鳴はあまりにも情けなく、チームにも動揺をもたらしていた。
ざまぁ見ろ。お前も俺と同じ目を見ればいい。
俺がこんな思いをしているのに、ヘラヘラとバスケをするなんて許さない。
幾年か経った頃、その選手とリベンジマッチがあった。ソイツは後輩たちを引き連れ俺の前に立ちはだかった。俺がちょっとイジればその後輩たちはみるみるウチに赤くなっていく。可愛いもんだ。お前らの前でもう1度壊してやるよ。そう思いながら、試合に挑んだ、のに。
負けた。何故だ。分からない。アイツはチームを守ろうとして、守られた。何故そんな欠陥のある選手を庇う。とっととベンチに下げてしまえばいいのに。
「また、やろーな」
何が、またやろうな、だ。何で俺が負けるんだ。何でお前のような奴が勝つんだ。実力はこっちの方が上だろう!
――その時俺は、また、敗北を知った。
ただ試合に負けたんじゃない。分かっていた。俺は負けている。試合でも、勝負でも、負けている。アイツは俺のやった事を理解し、それでも俺を受け止めようとした。それが出来るのは、仲間がいるからだろう。俺に仲間はいるか?いや、そんなのいない。あれは全部、駒だから。・・・・・・おかしいだろ、そんなの。出来る奴が勝つのが当然だろ。仲間も何もいらない。俺がいれば、それで、それで!
敗北論
(彼は愚かな立法学者だった)
それが俺の考えだった。今でも変わらない、この世は楽なもので、適当にやれば簡単に上に行けるのだ。出来ない奴の心理が分からない。「お前はおかしい」と良く言われるがそんな事ない。おかしいのは、出来ないお前らの方だ。
そんな生活は、勿論楽しいものではなかった。空虚な楽しみばかり集まって、自分にいらないものばかり蓄積していく。いつからかその重みに負けて、笑わなくなった。自分が何をしたいのか分からなかったのだ。何でも出来る、何でも簡単、どれもこれもつまらない。同じパズルを何度も何度も解いているような倦怠感。
そんな中、俺はバスケと出会った。授業でやった時、最初はどうでも良くて、適当に流そうとさえ思っていた。
――それなのに、おかしかった。
――ボールが俺の指示で自由自在に動き、ゴールに吸い込まれていく様は、まるでパズルだ。
面白い、と感じた。
それから俺はバスケ部に入部した。面白くはなかった。周りはつまらない出来損ないばかり、先輩には良く分からない不気味な奴がいるし、練習も面倒だ。それでもやってみようと思えたのは、あの時感じた感触がまだ手に残って、脳を甘美に振るわせるから。
いつの間にか俺は、二軍のリーダーの様な役割を果たすようになった。ある意味、その時が1番バスケ「を」楽しんでいたかもしれない。人を動かす快感、自由自在に動くボールが綺麗な弧を描いてゴールに入る度、俺はよしっ、とガッツポーズを決めるぐらいだった。
認めは出来なかったものの、楽しい日々だった。バスケ部では俺は一軍になった。それに驚きはしなかったし、そんなの関係ない。自分の好きなバスケを出来れば良かった。そう、思っていた。
それでも、結局神様は残酷で、俺から笑顔を奪い去った。
それは圧倒的だった。俺たち一軍はまるでボロ雑巾のように負けた。相手は「キセキの世代」とか言う奴ら。化け物だった。俺たちの努力は無駄だ、そう示された様で、俺たちは涙を隠せなかった。
畜生。折角楽しくなってたのに、結局これかよ。楽しくバスケが出来ればいいなんて、無理なんだ。勝たなきゃ、駄目なんだ。
その日から俺は、ラフプレーをする事に抵抗を感じなくなった。快感だった。故障した選手たちの苦しそうな顔や、夢を壊された顔は特に。ざまぁみろ、弱い奴がヘラヘラ笑ってんな。ラフプレーをするようになってから、また笑顔がなくなった。バスケにも何も感じなくなった。バスケをやるのは好きだからじゃない、少し得意だから、それだけ。
ある日、いつも通り選手を故障させた。膝だった。バスケの選手にとって膝は大事に決まってる。笑みが止まらなかった。そいつは強い奴らしかったが、膝が壊れた時のあの悲鳴はあまりにも情けなく、チームにも動揺をもたらしていた。
ざまぁ見ろ。お前も俺と同じ目を見ればいい。
俺がこんな思いをしているのに、ヘラヘラとバスケをするなんて許さない。
幾年か経った頃、その選手とリベンジマッチがあった。ソイツは後輩たちを引き連れ俺の前に立ちはだかった。俺がちょっとイジればその後輩たちはみるみるウチに赤くなっていく。可愛いもんだ。お前らの前でもう1度壊してやるよ。そう思いながら、試合に挑んだ、のに。
負けた。何故だ。分からない。アイツはチームを守ろうとして、守られた。何故そんな欠陥のある選手を庇う。とっととベンチに下げてしまえばいいのに。
「また、やろーな」
何が、またやろうな、だ。何で俺が負けるんだ。何でお前のような奴が勝つんだ。実力はこっちの方が上だろう!
――その時俺は、また、敗北を知った。
ただ試合に負けたんじゃない。分かっていた。俺は負けている。試合でも、勝負でも、負けている。アイツは俺のやった事を理解し、それでも俺を受け止めようとした。それが出来るのは、仲間がいるからだろう。俺に仲間はいるか?いや、そんなのいない。あれは全部、駒だから。・・・・・・おかしいだろ、そんなの。出来る奴が勝つのが当然だろ。仲間も何もいらない。俺がいれば、それで、それで!
敗北論
(彼は愚かな立法学者だった)
| 23:50
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