Twishortより
お題:レクバン 雰囲気:心中&メリバ
春が来た。
柔らかく降り注ぐ光が、俺の頬を照らして朝を告げる。モノクロの簡素な部屋に映える赤いベストに手をかけて、木製のアナログ時計は開店の1時間前を指していた。
着替えて、目の前の階段を降りる。1階はちょっとした喫茶店になっていて、いつも通り俺は携帯を取り上げて連絡を待つ。
今日も閑古鳥で賑わうであろうあの店、BlueCats。まぁ、繁盛されても困るんだがな――あの店は2つのカモフラージュをしているから。1つはアングラビシダス、1つは――
<<もしもし>>「ああ、拓也か」<<夕方、そこ使えるか?>>「いつも通り、閑古鳥だからな」<<了解。じゃあ、17時にまた>>
イノベーターに立ち向かう者の隠れ場。それが本当の目的でもある。だから、繁盛されても困る。
形だけの仕込みと掃除を終えて、カウンターに座って本を読む。時計は開店時刻を指していた。
そんな時計が流れて17時になる。カランカランとドアチャイムが鳴ってやって来たのは――
「拓也。その子は」「山野バン君だ」「山野?まさか」「ああ、博士の、息子だ」
俺は、その少年から目を離せなかった。
夏が来た。
自動的に切れた冷房を恨む。嫌な汗が首筋と胸を伝っていた。赤いベストに目もくれず、バスルームのドアを開けて身体の汗を流す。今日も閑古鳥の鳴く店を思いながら。
――――あいつ、今日も来るのか。
脳裏に浮かぶ、青とオレンジの服を着た少年。春に出会った彼は、ここ最近ずっとあの喫茶店に来る。彼のお陰で、お店のレパートリーにソフトドリンクが追加された。彼はLBXが好きでたまらないらしく、毎日決まったところでLBXのメンテをしている。
お湯を拭って、いつもの服を着る。時計は開店時刻を30分過ぎたところ。のんびり仕込みを始める。本当の開店まで、あと何時間だろう。早く、早く彼に会いたい。
「レックス」
ふと目を上げれば、いつもの様に彼が来ていた。いつもの位置で、いつもの道具を広げて。
「ああ、来たのか。オレンジジュース、飲むか?」
「ありがとう、レックス!」
彼は、俺の名前が好きなのかという程に俺の名前を呼ぶ。それが可愛らしいと感じられて、心のどこかで芽生えた心に俺はそっと蓋をしようとしていた。嗚呼、彼はまだ純真で、俺のような奴には触る事も許されない。そうは知っていても、俺は――――
季節は流れていく。
夏の騒がしさは終わりを告げ、静けさに眠る季節が来る。
嗚呼、やめてくれ。静かだと、聞こえてしまうんだ。
自分の声が、欲望の声が。
秋が来た。
使われなくなった冷房は少しずつ埃を被りはじめた。いや、この部屋自体が埃を被っている。滅多に帰らなくなったからな、と苦笑する。シーカーの一員として、昼夜を本部で過ごす事が多くなったからだろう。
「レックス-、どうしたの?」
今日は日曜日だからだろうか、朝から俺の隣にはバンがいる。幸せだ。朝から愛おしい者の顔と声を感じる事が出来るなんて。
「大分埃が溜まってきたから、掃除しようかと考えていたんだ」
「そう?俺にはそうは見えないなぁ」
そう言って無邪気に俺のベッドにダイブするバン。ピク、と心のどこか――いや、欲望が反応する。何度も夢で見た、あのシュチュエーションと同じ、今。ベッド、よれたシーツ、荒い声。
「部屋の主には分かるんだよ」
静かに、静かにベッドの横に座る。嗚呼、きっと抑え切れてない。バンの顔が、それを示している。少し緊張した様な声、握られた拳、必死に何かを言おうとする唇、上気した頬。
「バン」
名前を呼ぶ。嗚呼、俺の声も熱に浮かされている。夏の暑さが残っているのかもしれない。まだ太陽が昇っているから。
バンは俺の隣に来て、何も言わずに俺に抱きついて「大好き」と言った。心が、欲望が、本能を刺激して、俺は――――
届かないものだと思った純真に、手を伸ばしてしまった。その罪の重さに、責任の重さに気付かず。
冬が来た。
夏の余熱も消えて、その寒さに凍えて朝を迎える。隣に感じる微かな体温は、今にも消えてしまいそうで恐怖さえ感じる。
「起きろ、バン」
不安だった。バンが、消えてしまいそうで。バンはゆっくりと身を起こして、俺を見つめて微笑む。バンは俺に依存している。それは周知らしい。しかし、本当に依存しているのは俺なのだろう。
――1人で、過ごしたかった。復讐は、汚いと知っていたから。
――限界だった。誰か、体温が欲しかった。ずっと、凍えていた。
「ねぇ、レックス。俺はいつもレックスの隣にいるよ」
バン。それは嘘だ。いくら俺が足掻いても、バン。お前はどこか遠いところへ行ってしまう。なぁ、バン。それならいっそ。
「なぁ、バン。海に行こう。冬の海もオツなもんだ」
チャプ、海に脚を浸す。ずぶずぶ、どんどん沈む。
「レックス、俺、流されそう」「大丈夫だ、ちゃんと結んでるからな」「ねぇ、レックス」「なんだ」「ちゃんと、捕まえててね」「勿論」
小指が微かに痛い。良くみたら鬱血していた。でもそれはバンも同じで、赤い小指から伸びる指が互いを縛る。まるで、アフロディーテと エーロスを結んだリボンのように。
「バン」「なぁに、レックス」「愛してる」「俺も大好きだよ、レックス」「バン・・・・・・」
嗚呼、バン。俺は最期まで欲張りだ。お前の知らない愛を、お前に永遠に求め続ける。生きていても死んでいてもそれは同じだ。ずっと、お前に餓え続ける。俺は、ずっとお前を離せない。
だから、お願いがあるんだ、バン。「 」と言ってくれ。お願いだから――
春が来た。
俺たちの上に、柔らかく降り注ぐ光。いつかに感じたそれと同じだ。バンは微笑んでいた。俺も微笑んでいた。紐は解けなかった。途中何度も離れかけたが、この紐が俺たちを永遠に結び続ける。キツく結んだからな、と笑う。バンも笑っていた。
俺たち、永遠に一緒だな、と呟く。バンも、そうだね、と呟いた。
「ここで臨時ニュースです」「先日、行方不明になっていた男性と少年が」「××海の海岸で見つかりました」「2人の指は赤い紐で結ばれており」「恋愛に行き詰まっての心中だと」「警察は捜査を進めています」
「次のニュースです」
―――――
レクバンで春夏秋冬でした。急展開でした。くそg
1年ぐるーっと回ってまた春と見せかけて、春なんて来ません。来ません。
夏シーンの『オレンジジュース』は勿論意識してます。変態。
某フォロワーさんとレクバンの季節になった時から、ぼんやりこんな構想を考えていたり。「レクバンで春夏秋冬よくね??」
最後のニュースは、勿論そういう事です。「次のニュース云々」って入れたのは、本人たちからは大事でも、結局他人からしたらたかが30秒弱程度の事っていうレクバンに対する?皮肉?でした??
そんな感じでした。レクバンイズフォーエバー。
お題:レクバン 雰囲気:心中&メリバ
春が来た。
柔らかく降り注ぐ光が、俺の頬を照らして朝を告げる。モノクロの簡素な部屋に映える赤いベストに手をかけて、木製のアナログ時計は開店の1時間前を指していた。
着替えて、目の前の階段を降りる。1階はちょっとした喫茶店になっていて、いつも通り俺は携帯を取り上げて連絡を待つ。
今日も閑古鳥で賑わうであろうあの店、BlueCats。まぁ、繁盛されても困るんだがな――あの店は2つのカモフラージュをしているから。1つはアングラビシダス、1つは――
<<もしもし>>「ああ、拓也か」<<夕方、そこ使えるか?>>「いつも通り、閑古鳥だからな」<<了解。じゃあ、17時にまた>>
イノベーターに立ち向かう者の隠れ場。それが本当の目的でもある。だから、繁盛されても困る。
形だけの仕込みと掃除を終えて、カウンターに座って本を読む。時計は開店時刻を指していた。
そんな時計が流れて17時になる。カランカランとドアチャイムが鳴ってやって来たのは――
「拓也。その子は」「山野バン君だ」「山野?まさか」「ああ、博士の、息子だ」
俺は、その少年から目を離せなかった。
夏が来た。
自動的に切れた冷房を恨む。嫌な汗が首筋と胸を伝っていた。赤いベストに目もくれず、バスルームのドアを開けて身体の汗を流す。今日も閑古鳥の鳴く店を思いながら。
――――あいつ、今日も来るのか。
脳裏に浮かぶ、青とオレンジの服を着た少年。春に出会った彼は、ここ最近ずっとあの喫茶店に来る。彼のお陰で、お店のレパートリーにソフトドリンクが追加された。彼はLBXが好きでたまらないらしく、毎日決まったところでLBXのメンテをしている。
お湯を拭って、いつもの服を着る。時計は開店時刻を30分過ぎたところ。のんびり仕込みを始める。本当の開店まで、あと何時間だろう。早く、早く彼に会いたい。
「レックス」
ふと目を上げれば、いつもの様に彼が来ていた。いつもの位置で、いつもの道具を広げて。
「ああ、来たのか。オレンジジュース、飲むか?」
「ありがとう、レックス!」
彼は、俺の名前が好きなのかという程に俺の名前を呼ぶ。それが可愛らしいと感じられて、心のどこかで芽生えた心に俺はそっと蓋をしようとしていた。嗚呼、彼はまだ純真で、俺のような奴には触る事も許されない。そうは知っていても、俺は――――
季節は流れていく。
夏の騒がしさは終わりを告げ、静けさに眠る季節が来る。
嗚呼、やめてくれ。静かだと、聞こえてしまうんだ。
自分の声が、欲望の声が。
秋が来た。
使われなくなった冷房は少しずつ埃を被りはじめた。いや、この部屋自体が埃を被っている。滅多に帰らなくなったからな、と苦笑する。シーカーの一員として、昼夜を本部で過ごす事が多くなったからだろう。
「レックス-、どうしたの?」
今日は日曜日だからだろうか、朝から俺の隣にはバンがいる。幸せだ。朝から愛おしい者の顔と声を感じる事が出来るなんて。
「大分埃が溜まってきたから、掃除しようかと考えていたんだ」
「そう?俺にはそうは見えないなぁ」
そう言って無邪気に俺のベッドにダイブするバン。ピク、と心のどこか――いや、欲望が反応する。何度も夢で見た、あのシュチュエーションと同じ、今。ベッド、よれたシーツ、荒い声。
「部屋の主には分かるんだよ」
静かに、静かにベッドの横に座る。嗚呼、きっと抑え切れてない。バンの顔が、それを示している。少し緊張した様な声、握られた拳、必死に何かを言おうとする唇、上気した頬。
「バン」
名前を呼ぶ。嗚呼、俺の声も熱に浮かされている。夏の暑さが残っているのかもしれない。まだ太陽が昇っているから。
バンは俺の隣に来て、何も言わずに俺に抱きついて「大好き」と言った。心が、欲望が、本能を刺激して、俺は――――
届かないものだと思った純真に、手を伸ばしてしまった。その罪の重さに、責任の重さに気付かず。
冬が来た。
夏の余熱も消えて、その寒さに凍えて朝を迎える。隣に感じる微かな体温は、今にも消えてしまいそうで恐怖さえ感じる。
「起きろ、バン」
不安だった。バンが、消えてしまいそうで。バンはゆっくりと身を起こして、俺を見つめて微笑む。バンは俺に依存している。それは周知らしい。しかし、本当に依存しているのは俺なのだろう。
――1人で、過ごしたかった。復讐は、汚いと知っていたから。
――限界だった。誰か、体温が欲しかった。ずっと、凍えていた。
「ねぇ、レックス。俺はいつもレックスの隣にいるよ」
バン。それは嘘だ。いくら俺が足掻いても、バン。お前はどこか遠いところへ行ってしまう。なぁ、バン。それならいっそ。
「なぁ、バン。海に行こう。冬の海もオツなもんだ」
チャプ、海に脚を浸す。ずぶずぶ、どんどん沈む。
「レックス、俺、流されそう」「大丈夫だ、ちゃんと結んでるからな」「ねぇ、レックス」「なんだ」「ちゃんと、捕まえててね」「勿論」
小指が微かに痛い。良くみたら鬱血していた。でもそれはバンも同じで、赤い小指から伸びる指が互いを縛る。まるで、アフロディーテと エーロスを結んだリボンのように。
「バン」「なぁに、レックス」「愛してる」「俺も大好きだよ、レックス」「バン・・・・・・」
嗚呼、バン。俺は最期まで欲張りだ。お前の知らない愛を、お前に永遠に求め続ける。生きていても死んでいてもそれは同じだ。ずっと、お前に餓え続ける。俺は、ずっとお前を離せない。
だから、お願いがあるんだ、バン。「 」と言ってくれ。お願いだから――
春が来た。
俺たちの上に、柔らかく降り注ぐ光。いつかに感じたそれと同じだ。バンは微笑んでいた。俺も微笑んでいた。紐は解けなかった。途中何度も離れかけたが、この紐が俺たちを永遠に結び続ける。キツく結んだからな、と笑う。バンも笑っていた。
俺たち、永遠に一緒だな、と呟く。バンも、そうだね、と呟いた。
「ここで臨時ニュースです」「先日、行方不明になっていた男性と少年が」「××海の海岸で見つかりました」「2人の指は赤い紐で結ばれており」「恋愛に行き詰まっての心中だと」「警察は捜査を進めています」
「次のニュースです」
―――――
レクバンで春夏秋冬でした。急展開でした。くそg
1年ぐるーっと回ってまた春と見せかけて、春なんて来ません。来ません。
夏シーンの『オレンジジュース』は勿論意識してます。変態。
某フォロワーさんとレクバンの季節になった時から、ぼんやりこんな構想を考えていたり。「レクバンで春夏秋冬よくね??」
最後のニュースは、勿論そういう事です。「次のニュース云々」って入れたのは、本人たちからは大事でも、結局他人からしたらたかが30秒弱程度の事っていうレクバンに対する?皮肉?でした??
そんな感じでした。レクバンイズフォーエバー。
| 13:25
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