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誰もが最期は独りだ (レクバン)

薄暗い部屋、スイッチを押せば、椅子に腰をおろして眠る愛しい姿。口から微かに零れる寝息に俺は微笑んで「レックス。ただいま」レックスは目を開けて俺を捉えると、「ああ、おかえり」と微笑んだ。
「今日は、久しぶりにジンと会ったんだ。立派になってたよ。――って会社、あるだろ?あれ、ジンの会社なんだ。それに、郷田も親の仕事を継いでた。面白いのが、仙道が秘書やってるんだよ。似合わないよね。でも、ああ見えて細かい事は得意だったから、案外天職なのかも」
レックスは何も言わずに、ただ微笑んでいる。時計の針は、午後3時を指す。
「ああ、おやつにしようか。今日、良い豆が入ったんだ。俺、もうレックスよりも美味しい珈琲、淹れられるようになったかな」
キッチンに立って、珈琲を淹れる用意をする。棚からクッキーとカップを取り出して、皿にクッキーを並べる。そうすれば珈琲が出来上がって、カップに注ぐ。良い香りが漂うそれらを運べば、レックスは嬉しそうに「ありがとう」と笑う。
「さぁ、食べて。このクッキー、わざわざお店に並んでゲットしたんだ」
レックスの手が、カップを取って口に運ぶ。だけど、テーブルに戻されたカップの中身は減っていない。
「あれ、おいしくなかった?」
「いや、そんな事はない」
「もしかして、具合良くない?」
「大丈夫だ」
嗚呼、きっと無理をしているんだ。あんな事があった後だから、まだ心の傷がふさがっていないんだろう。サターンであった事は、確かに俺たちに傷をつけた。でも、大丈夫。俺が支えるし、時間が解決してくれるから。
「明日は、一緒に水族館でも行こうか。丁度、近くの水族館がリニューアルしたんだ」
クッキーが減っていく、全て、俺の手によって。レックス、どうしたの。最近、全然ご飯を食べないじゃないか。そろそろ何かを食べないと、死んでしまう。ねぇ、レックス。どうしたの。声をかけようとしたその時。レックスの肩に触れた手に付着した、それ。

「すまない、バン」

――思考が、理性が、カチリと音を立てて、崩れた気が、した。

レックス、どうしてレックスは濡れてるの?もしかしてと窓を見遣れば、さっきまでの晴天とは打って変わって土砂降りの雨。きっと、洗濯物を取り込んでくれたんだ。ああ、ここまで日常的な生活をレックスを過ごせるなんて!「ありがとう」呟けば、レックスは緩やかにその手を俺の背に伸ばす。暖かい、融けて崩れてしまいそうなレックスの身体を抱き留める。ああ、レックス。俺、レックスが大好きだよ。だから、ずっと、ここに・・・・・・



誰もが最期は独りだ
(それに例外はないのに!)




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現実を見事にスルーしたバンさんのお話でした。



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