Twishortより
お題:レクバン 雰囲気:閉鎖的レクバン
(微妙に、前作『今こそ、鳥籠の中に』の続き)
重たい瞼が開けると、黒に満ちた空間が視界いっぱいに入ってきた。嗚呼、こうなってもう何週間も過ぎた。レックスは依然として、俺をここから出す気は、ない。
「おはよう、バン」
レックスの言葉1つ1つからしか、俺は情報を得る事が出来ない。レックスがおはようって言ったから今は朝だ、レックスがおやすみと言ったからもう夜だ、と。俺は外部からの接触も情報も全てシャットアウトされていた。
「おはよう、レックス」
「今日はトーストサンドを作ったんだ」
そう微笑んで俺に食事を差し出すレックス。トーストサンドから漂う芳ばしい香りに、俺のお腹はバカ正直にぐううと空腹を告げた。最初の頃は差し出された食事を突っぱね、床にぶちまけた事もあった。今ではもうそんな事しないけど。
「ありがとう。いただきます」
ちゃんと両手を合わせてから、トーストサンドを1つ手に取って、口に運ぶ。サクッとしたトーストに、食感の良いレタス、トマトは甘くて、少しだけ振られている塩がまたその甘さを助長していた。隣に置いてある珈琲はきっと挽き立てだったのだろう、それからも芳ばしい香りがしていた。
「美味しいか?」
「うん、美味しいよ」
そう返せば、レックスはほっとしたのか、胸をなで下ろした。シャク、シャク、口内でレタスが良い音を立てる。珈琲を飲めばごくりと喉が動く音がするし、カップを下ろせばソーサーとそれがぶつかり合う音もする。溢れる音に、俺は出来る限り神経を集中させた。そうでもしていなければ、意識を逸らせないし、気が狂いそうになるから。・・・・・・嗚呼、重い。足首が妙に、重い。首が、痛い。
「足首は痛くないか、バン」
少し陰りを帯びた目でレックスは、俺を見つめた。きっと、申し訳なく思っているんだろう。やったのは自分なくせに!そういうところも可愛いとはいえ、正直今のレックスの言葉は嬉しかった。さっきから足首が重くてたまらないのだ。もう俺は逃げないのに、レックスはまだそれを外してくれない。心配なのだろう。やっと捕まえた俺が、また逃げてしまうのが。可愛いな、と思う。俺はもう、レックスしかいないのに。「ちょっと、痛いかも」微笑んでそう呟けば、レックスは少し悩んだ顔で俺を見つめた。困っているのが分かった。俺を信じてそれを取るか、自分の不安を肯定してこのままにするか。「レックス」名前を呼ぶ。
大好きな、大好きな名前だ。何回も何回も何回も呼んだ、何回も何回も何回もその名前に泣いた、何回も何回も何回も離れたくないと思った、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回もこう思ったんだ。ねぇ、レックス!
「俺はもう、レックスしかいないんだよ?」
その言葉の意味を、レックスだけは理解した。レックスは「そうだな」と意地悪く笑って、俺の足首についていた足枷を外した。カチャリ、という音を最後に俺の足は自由になる。俺はその足で立って、やっとレックスを抱きしめる事が出来た。暖かい、珈琲と煙草の匂いが染みついたコートが愛おしい。
レックスは俺の肩に手を置いて自分から引きはがすと、俺の首に手をかけた。「レックス。それは、外さないで」自分でも、変な発言だと思った。だって今でも首の違和感が辛くない訳ないし、本当は無いに超した事はない。それでも。
これがあれば、レックスは俺のものになると思った。これがある限り俺はレックスに縛られるし、これがある限りレックスは俺に縛られ続ける。
「じゃあ、そのままにしておこう」
そっと、俺の首からレックスの首が離れる。結局首輪だけはついたままになった。それで良かった。俺にはもうレックスしかいない。この閉鎖的な世界の中で、俺たちを繋ぐ何かが欲しかった。レックスはまだ外で色々な事をやっているのに、俺は違う、ここでずっとレックスを待っている。それが嫌だった。レックスを俺に縛り付けたかった。
レックスは立ち上がると、またどこかへ行ってしまう。「じゃあ、またな、バン」「うん、いってらっしゃい」早く帰ってきてね、俺のレックス。そう呟いた頃には、扉はもう閉まっていた。
―――――
お題「貴方しかいない世界」でした。
ストックホルム症候群的な感じ・・・・・・なんでしょーか。
お題:レクバン 雰囲気:閉鎖的レクバン
(微妙に、前作『今こそ、鳥籠の中に』の続き)
重たい瞼が開けると、黒に満ちた空間が視界いっぱいに入ってきた。嗚呼、こうなってもう何週間も過ぎた。レックスは依然として、俺をここから出す気は、ない。
「おはよう、バン」
レックスの言葉1つ1つからしか、俺は情報を得る事が出来ない。レックスがおはようって言ったから今は朝だ、レックスがおやすみと言ったからもう夜だ、と。俺は外部からの接触も情報も全てシャットアウトされていた。
「おはよう、レックス」
「今日はトーストサンドを作ったんだ」
そう微笑んで俺に食事を差し出すレックス。トーストサンドから漂う芳ばしい香りに、俺のお腹はバカ正直にぐううと空腹を告げた。最初の頃は差し出された食事を突っぱね、床にぶちまけた事もあった。今ではもうそんな事しないけど。
「ありがとう。いただきます」
ちゃんと両手を合わせてから、トーストサンドを1つ手に取って、口に運ぶ。サクッとしたトーストに、食感の良いレタス、トマトは甘くて、少しだけ振られている塩がまたその甘さを助長していた。隣に置いてある珈琲はきっと挽き立てだったのだろう、それからも芳ばしい香りがしていた。
「美味しいか?」
「うん、美味しいよ」
そう返せば、レックスはほっとしたのか、胸をなで下ろした。シャク、シャク、口内でレタスが良い音を立てる。珈琲を飲めばごくりと喉が動く音がするし、カップを下ろせばソーサーとそれがぶつかり合う音もする。溢れる音に、俺は出来る限り神経を集中させた。そうでもしていなければ、意識を逸らせないし、気が狂いそうになるから。・・・・・・嗚呼、重い。足首が妙に、重い。首が、痛い。
「足首は痛くないか、バン」
少し陰りを帯びた目でレックスは、俺を見つめた。きっと、申し訳なく思っているんだろう。やったのは自分なくせに!そういうところも可愛いとはいえ、正直今のレックスの言葉は嬉しかった。さっきから足首が重くてたまらないのだ。もう俺は逃げないのに、レックスはまだそれを外してくれない。心配なのだろう。やっと捕まえた俺が、また逃げてしまうのが。可愛いな、と思う。俺はもう、レックスしかいないのに。「ちょっと、痛いかも」微笑んでそう呟けば、レックスは少し悩んだ顔で俺を見つめた。困っているのが分かった。俺を信じてそれを取るか、自分の不安を肯定してこのままにするか。「レックス」名前を呼ぶ。
大好きな、大好きな名前だ。何回も何回も何回も呼んだ、何回も何回も何回もその名前に泣いた、何回も何回も何回も離れたくないと思った、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回もこう思ったんだ。ねぇ、レックス!
「俺はもう、レックスしかいないんだよ?」
その言葉の意味を、レックスだけは理解した。レックスは「そうだな」と意地悪く笑って、俺の足首についていた足枷を外した。カチャリ、という音を最後に俺の足は自由になる。俺はその足で立って、やっとレックスを抱きしめる事が出来た。暖かい、珈琲と煙草の匂いが染みついたコートが愛おしい。
レックスは俺の肩に手を置いて自分から引きはがすと、俺の首に手をかけた。「レックス。それは、外さないで」自分でも、変な発言だと思った。だって今でも首の違和感が辛くない訳ないし、本当は無いに超した事はない。それでも。
これがあれば、レックスは俺のものになると思った。これがある限り俺はレックスに縛られるし、これがある限りレックスは俺に縛られ続ける。
「じゃあ、そのままにしておこう」
そっと、俺の首からレックスの首が離れる。結局首輪だけはついたままになった。それで良かった。俺にはもうレックスしかいない。この閉鎖的な世界の中で、俺たちを繋ぐ何かが欲しかった。レックスはまだ外で色々な事をやっているのに、俺は違う、ここでずっとレックスを待っている。それが嫌だった。レックスを俺に縛り付けたかった。
レックスは立ち上がると、またどこかへ行ってしまう。「じゃあ、またな、バン」「うん、いってらっしゃい」早く帰ってきてね、俺のレックス。そう呟いた頃には、扉はもう閉まっていた。
―――――
お題「貴方しかいない世界」でした。
ストックホルム症候群的な感じ・・・・・・なんでしょーか。
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