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野菜ジュースに不安定(黄黒)

Twishortより



お題:黄黒   雰囲気:甘くはない


いつも飲むスポーツドリンクの隣、見慣れない商品があるのに気づいて目を留めた。『野菜いっぱい シークヮーサーミックス 期間限定』と書かれたそれは、見慣れた紙パックの野菜ジュースで。

「黒子っち、それ飲むんスか?」

売店の人混みの中、黄瀬くんはのんきにそう僕に問いながらそれを取った。何となく意外なような気がして、思わず

「黄瀬くん、そういうの飲むんですね」

と聞いてしまった。

当の本人はあはは、と笑いながら手早く会計を済ませ、まずはここから出るっスと呟いた。僕も続いて会計を済ませて、黄瀬くんの影を追う。

「……俺、こーいう味好きなんスよね」

ぼんやり空を見上げて、さっき買ったシークヮーサーミックス味を飲みながら黄瀬くんは言った。つられて見上げた空には、大きな入道雲が1つ。

「後味がなくて、次のものにひょいって移れちゃうような、軽い味が」

どことなく、それは自分の事を言っているんじゃないかと思える。ふと思ったその言葉の意味が、自分でもまだ理解出来ない。ただ、まるでそれは執着をしない黄瀬くんの様に思えた。

なんで黄瀬くんに『執着をしない』という評価が下されているのかは分からない。でも、それは常日頃の行動の断片から来るんだろう。大事そうにしていたストラップが壊れた時、笑顔で「壊れちゃったから仕方ないっス」と躊躇いもなくそれを捨てた事、それだけじゃない。

「……何か残らないと、寂しい気もしますが」

「寂しい?」

いつもと変わらない、まるで犬の様に従順で受け身で裏表のなさそうな笑顔。なのに感じた恐怖とも哀情とも言えぬこの感情は、一体。

「寂しいなんて、どこに感じるんスか?寂しくなるぐらいに、長い期間いる事自体ないっすよね?」

嗚呼、と息が漏れる。そういう事だったのだ。

黄瀬くんは知らないんだ。本能かどうかは知らないけれども、どこかに安定するという事を。安定して、それが崩れた時のあの絶望と焦燥の混ざったあの感情を、嫌悪しているのかもしれない。だから、バスケットボールも『模倣』という特技を得たのかもしれない。

総ては推測だ。でも、どうしてもそう考えられてしまう。蝉が僕たちの声を消す、いや、元から無かった。僕たちの声は、夏の入道雲の前には小さすぎて、彼の言葉の裏の真意も聞こえなくなってしまっていた。



―――――
野菜生活のシークヮーサーミックスを飲みながら。



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