本日 97 人 - 昨日 6 人 - 累計 53512 人
――たまに、お前の首を絞めてしまいたくなる時があるんだ。



ギシ、とスプリングが鳴る。時計はまだ2時半を指していて、本来起きるべき時間には未だ遠い。またこのパターンか、と頭をかいて俺はベッドから立ち上がる。こんな夜にまた寝静まろうとしても、出来ないのが落ちだ。外の空気でも吸ってから、出来なかった仕事の続きでもやろう。そう思いながらベランダへ出れば、満天の星空が俺を迎えた。

「・・・・・・寒いな」

そうか、もう冬だ。あそこに見えるのはペガサス座だろうか。机に座って、必死にノートを取っていたあの頃を思い出す。冬の大三角形、ベテルギウス、シリウス。嗚呼、もう1つは一体なんだっただろうか。ぽろぽろと記憶が剥がれ落ちて、どこかに落としてしまったらしい。あの頃は何をしていた、何を思っていた、教室、机に書かれた心ない言葉、憎しみは誰が為に。必死だった。何かに、必死だった。一体それは何か。・・・・・・今も昔も変わらないのかもしれない。昔から成長していないのだろう。成長したのは、体格と身長ぐらいか。
そんな時に彼と出会ってしまった。その輝く瞳は常に未来を映していて、話す言葉の隅々にまでそれは行き渡る。希望の子だ。絶望しない、しても支えてくれる仲間がいるし、絶望に沈む仲間がいたら助けるであろう、彼。
羨望。その言葉に尽きた。羨ましくて羨ましくて堪らないのだ。俺が死ぬ程欲しくて欲しくてでも与えられなくて得られなくて諦めたそれを、彼は、生まれた時から、当たり前のように持っている!
希望。未来。仲間。信頼。愛情。友情。嗚呼、彼の前に立つと俺は、俺でなくなってしまう。俺の、檜山連の存在意義が、どこか遠くへ行ってしまいそうなんだ!

「・・・・・・どうして、アイツは」

彼は、俺を慕っている。俺も、彼を好いている。何度も夜を過ごしたし、何度も彼に自身の汚い欲望を晒して突き刺して彼を汚した。それでも彼は、俺を慕う。
分からない。なぜそこまで俺を慕う。愛する。やめてくれ、と叫びたくなる時すらある。分かっているから、分かっているからやめてほしいんだ。お前のそれは愛情じゃなくて人類愛のようなものなのだと、分かっているから。

手が、手すりに触れる。嗚呼、硬い。アイツの首は、あんなにも柔かったのに。跨って揺さぶった時に絞めた首は、あまりにも細くて、柔くて、脆くて。
・・・・・・俺の衝動の前に、アイツはきっと壊れてしまうだろう、と。

首を絞めたくなるんだ。その息を止めさせてしまいたくなるんだ。彼はあまりにも美しすぎる。この世に晒してはいけないんだ。汚れていってしまうのなら、その前に俺の手で首を絞めて殺してしまえば、美しいまま逝ってくれるのでは、なんて本気で考える始末。それが無理なら足でも良い。足を折ってしまえば、歩けなくなる。俺が一生面倒を見ればいい、そうしたら、そうしたら・・・・・・!

「明日、大きめの包丁を買いに行こうか」

きっと彼は苦しむだろう。その顔でさえ今は愛おしい。早くしないと、彼が汚れてしまう。その前に、早く、俺の手で彼を、バンを――



傲慢な保護
(それは彼が為と見せかけた、自己満足である、のに)


***
暴走系レックスでした。
未ファにいけなかった腹いせに。


薄暗い部屋、スイッチを押せば、椅子に腰をおろして眠る愛しい姿。口から微かに零れる寝息に俺は微笑んで「レックス。ただいま」レックスは目を開けて俺を捉えると、「ああ、おかえり」と微笑んだ。
「今日は、久しぶりにジンと会ったんだ。立派になってたよ。――って会社、あるだろ?あれ、ジンの会社なんだ。それに、郷田も親の仕事を継いでた。面白いのが、仙道が秘書やってるんだよ。似合わないよね。でも、ああ見えて細かい事は得意だったから、案外天職なのかも」
レックスは何も言わずに、ただ微笑んでいる。時計の針は、午後3時を指す。
「ああ、おやつにしようか。今日、良い豆が入ったんだ。俺、もうレックスよりも美味しい珈琲、淹れられるようになったかな」
キッチンに立って、珈琲を淹れる用意をする。棚からクッキーとカップを取り出して、皿にクッキーを並べる。そうすれば珈琲が出来上がって、カップに注ぐ。良い香りが漂うそれらを運べば、レックスは嬉しそうに「ありがとう」と笑う。
「さぁ、食べて。このクッキー、わざわざお店に並んでゲットしたんだ」
レックスの手が、カップを取って口に運ぶ。だけど、テーブルに戻されたカップの中身は減っていない。
「あれ、おいしくなかった?」
「いや、そんな事はない」
「もしかして、具合良くない?」
「大丈夫だ」
嗚呼、きっと無理をしているんだ。あんな事があった後だから、まだ心の傷がふさがっていないんだろう。サターンであった事は、確かに俺たちに傷をつけた。でも、大丈夫。俺が支えるし、時間が解決してくれるから。
「明日は、一緒に水族館でも行こうか。丁度、近くの水族館がリニューアルしたんだ」
クッキーが減っていく、全て、俺の手によって。レックス、どうしたの。最近、全然ご飯を食べないじゃないか。そろそろ何かを食べないと、死んでしまう。ねぇ、レックス。どうしたの。声をかけようとしたその時。レックスの肩に触れた手に付着した、それ。

「すまない、バン」

――思考が、理性が、カチリと音を立てて、崩れた気が、した。

レックス、どうしてレックスは濡れてるの?もしかしてと窓を見遣れば、さっきまでの晴天とは打って変わって土砂降りの雨。きっと、洗濯物を取り込んでくれたんだ。ああ、ここまで日常的な生活をレックスを過ごせるなんて!「ありがとう」呟けば、レックスは緩やかにその手を俺の背に伸ばす。暖かい、融けて崩れてしまいそうなレックスの身体を抱き留める。ああ、レックス。俺、レックスが大好きだよ。だから、ずっと、ここに・・・・・・



誰もが最期は独りだ
(それに例外はないのに!)




******
現実を見事にスルーしたバンさんのお話でした。

理解者(レクバンSS)

2012年10月24日
(2人は最期心中を試みて、でもレックスだけ死んだみたいな前提があります)


ねぇ、レックス。俺、信じてたんだよ。
ねぇ、レックス。貴方は遠い所に行ってしまったけれども。
ねぇ、レックス。俺は未だに、貴方の影を探していた。


するすると解けて床に落ちる包帯。中身がじょじょに見えてくる。嗚呼、見慣れた髪の色、口調。だった、のに。
目の前で立ちあがって俺たちを見下すその人は、レックスではなかった。

「――――・・・・・・」

ドボン、ぶくぶく。水中に落下する音。嗚呼、レックス。あの時にやっぱり、貴方は。そう、だったんだね。嗚呼、俺は結局、1人なんだね。
階段の上、真実と呼ばれた人が何か言ってる。

「――人は獣にあらず」

全身が、一気に粟立った。
え、この人なんで知ってるの。あの言葉は、俺に託された、そう俺に伝えた、レックスが、俺だけに言った、言葉なのに。
無意識に紡いだ言葉が、Dr.マミーと重なって、より一層強調される。人は獣にあらず、人は神にあらず。嗚呼、なんで、俺だけだったのに!
お前にレックスの何が分かるんだ。呟いた声は、あまりにも自分とはかけ離れていた。どす黒い嫉妬に塗れた、野太い声。
お前は知らないだろう。レックスが心の底で抱いていた思いを。知らないだろう。俺に「一緒に死なないか」と持ちかけたあの時の高揚とも絶望とも罪悪感とも言えぬ、その全てが混ざった、あの顔を。知らないだろう、「愛してる」と囁くあの声を!
必死だった。自分はレックスの唯一の理解者である。それが崩壊してしまうような気がした。

理解者
(それが、心のよりどころだから)


*****
まだふわふわしているので、とりあえずの消化です・・・・・・。

愛とは、(お題)

2012年10月08日
ハイヒールに魅せたエロス

青空、自転車、君のストロゲー

ネオン街のルーダス

盲目のマニア

プラグマ、機械と変わりない

アガペーと、嘘を吐いた


愛とは、

エロス(情熱的な恋愛)
ストロゲー(友愛的な恋愛)
ルーダス(遊戯的な恋愛)
マニア(狂信的な恋愛)
プラグマ(実利的な恋愛)
アガペー(博愛主義に根ざす利他的な恋愛)

最初はただ、面白いとしか思っていなかった。目の前の男は、珈琲の揺れるカップを見つめながら、そう私に話した。


その日は、雨が酷かった。この季節柄相応しい台風或いはゲリラ豪雨。人間が予想出来ない、予想しても何も出来ないそれらのしでかす雨に、私は鞄を盾にする事も出来ずに走っていた。革靴に薄汚れた水たまりの水が乗っかり、荷物を濡らしてはいけないと丸めた背は、まるで着衣したまま風呂に入ったようだ。
ざんざんと激しい音と共に私を叩く雨に、私は音を上げた。丁度近くに、喫茶店の看板がある。「Bulecats」と書かれたその看板を目にした私は、四の五の言ってられないとそこのドアを開けた。

「いらっしゃい」
雨の音が消え、静寂の流れるその空間に私は佇んでいた。嗚呼、お客さん、風邪引きますよ。この喫茶店のマスターと思わしき男性が、タオルを片手に私に近づいた。どこか哀愁のあるその男性からタオルを受け取り一礼する。
「すみません、こんな格好で・・・・・・」
「大丈夫ですよ。さぁ、とりあえず腰掛けてください。今、温かい珈琲を出しましょう」
何となく、この男性には敬語が似合わないと思った。客にもタメ口で話し、だからこそ人気があるマスター。そんな雰囲気が、彼にはあった。その旨を伝えれば、男性は笑って「確かに、敬語は得意ではないかもしれない」と頬を掻いていた。
「その姿を見る限り、きっとお仕事の帰りなんでしょう。しかも、鞄を大事そうに抱えていた。出版社にでもお勤めで?」
どうも、違う。私は首を傾げた。この男性の全ての挙動が、彼に会わないのだ。まるで、薬を飲んで可笑しくなってしまったような印象さえ感じる。
「まぁ、そんな感じですかね。フリーライターをやってます」
「フリーライター。随分とかっこいい職業だ」
男性はクスクスと微笑んで、自分も椅子に座った。カウンター越しに見えた瞳は赤く、少しだがくまが見てとれた。
「そうでもないですよ。事実、稼ぎもそう多くない。今日も、同性愛だなんて難しい題材を吹っかけられたところで」
同性愛。その言葉に、男性はどこか過剰に反応した。珈琲を一口飲んで、男性は私を見つめる。
「・・・・・・貴方は、同性愛についてどうお思いで」
「否定はしませんね。職業柄、様々な立場の方と話しますから、少し性愛の対象が違ったとて驚かなくなりました」
「それは、好都合」
カチャン、と珈琲のカップが置かれる。男性は私の顔をジィッと見つめ、言った。
「身の上話を、聞いてほしい」

別に俺は、幼い頃から同性愛者だった訳ではない。ただ、少し複雑な家庭状況だったもので、色恋沙汰に落ちる余裕がなかったのも事実だった。
成人して幾ばく経った頃、この土地を借りて喫茶店を作った。Bulecats。友人は等しくこれを青い猫と思っていたが、本当は黒猫の意をしている。ヨーロッパでは不吉とされてきた、黒猫。ロシアンブルー、ボンベイ。神秘的と評されたりもする彼らを店名にした事に、深い意味はなかった。それから暫く経った頃、世の中にLBXが発表された。それは子ども達から大人まで爆発的な人気を誇り、今じゃもう、海外にだって進出してる。そう、その頃だった。彼、そうだな、ここではBとしよう。彼と会ったのはその頃で、今日みたいに雨が酷い日だった。

Bはとにかく、LBXを愛していた。それは彼の家庭環境も影響していたのかもしれない。何せ、彼、Bの父親がLBXの開発にとても影響していたから。その息子となればまぁ、好きにならない理由はないかもしれない。
彼は誰に対しても友好的で、俺に対しても友好的だった。俺もその頃LBXを弄る事にハマっていて、この辺りでは「伝説のLBXプレイヤー」なんて二つ名を貰うぐらいだった。この二つ名も相まって、俺とBはすぐに仲良くなった。俺はあまり子どもは好きではないから、14の彼に対しても最初はあまり友好的にはなれなかった。しかし、彼の純粋なLBXを愛する心に、次第に俺は馬鹿馬鹿しくなってきた。何がと言えば、全てにだ。大人になって、何かを諦め、憎み、心を閉ざす事。全てだ。
嗚呼、俺たちが仲良くなるのに時間はかからなかった。俺たちは毎日ここで色々な事を話した。そして俺は、彼に恋愛感情を抱くようになった。可笑しいと思うかも知れない。でも、事実だった。会えば胸は高鳴り、会えなくなれば寂しきに溺れ、彼の口が違う誰かの名前を紡ぐ度に嫉妬が俺を焼いた。
自分でも異常だと思った。それでも、この炎は消えない。あの健康的な肌、純真な心、まっすぐな瞳、ふわりと揺れる髪、「レックス」俺の名前を紡ぐ口、確かに未来へ向かう足、希望しか知らないような声、全てが、全てが俺に無いもので、全てが俺の欲しいものだった。
しかし、許される恋ではないとも理解していた。日本は、アジアは同性愛に対して肯定的ではない。しかも、彼が俺の想いに応えてくれるとも思えない。苦しい日々だった。恋慕の情を隠しながら毎日を過ごすのは。
そんなある日、Bは俺に言った。「レックスは、同性愛ってどう思う?」その時ばかりは、まるで神の前に跪き震える羊のようだった。嗚呼、この思いはもう秘めておこうと思っていたのに、何故神はこうやって俺たちを弄ぶのか。神は、俺が平穏である事を許さなかった。震える声で「どうしてだ?」と問えば、Bは頬を赤らめて俺に言う。「レックスの事が――」俄には信じられなかった。当たり前だ。ずっと想っていた彼が、俺の事を、愛しているという。こんな幸福が、あっていいものか。
その後は、穏やかな交際が続いた。表沙汰には出来ない交際だったけれども、幸せだった。そのはず、だったのに。
やはり、神はエゴイストだった。ある日、Bが急に泣き出したんだ。「どうして、俺たちの関係は許されたものではないの」俺は青ざめた。年齢差、性別、立場。全てが駄目だったのだ。この世界では。もしこの関係が暴かれてみよう。『ホモの許されぬ禁断の愛』『中学生を襲った変態男』どう言われるかなんて、想像しなくても分かる。
そう、世界に対し俺たちはあまりにも無力だった。俺たちに居場所はない。だから、俺たちは遠くへ行こうと決めた。誰もいない、誰も俺たちの邪魔をしない遠くへ。

カラン、とドアが開く。私はその音につられ後ろを見遣った。そこには年端のいかない少年が傘も持たずに立っていた。「バン」男性は嬉しそうに呟く。きっと、彼がBなのだろう。男性はカウンターから出ると、車のキーを持って私の横を通り過ぎる。「申し訳ない。閉店です」その傘を使ってください。男性が指さした場所には紺の傘が1つ立てられていた。ありがとうございます、とお礼を言おうと立ち上がる。しかし、ドアにもう彼らの姿はなかった。その事に、私は驚かなかった。きっと彼らは、どこかで死ぬのだろう。言ってしまえば、心中だ。しかし、私に彼らを止める資格はない。彼らと私の間には確固たる溝があったし、私は正直、同性愛が苦手でもあった。理解が出来ないのだ。立ち上がればいいのに、そこで死という選択をしてしまう彼らは結局のところ、弱いのだろう。
あまり、長くは留まれない。私も立ち上がり、傘を手に取って店を出る。雨はより一層酷くなり、もう彼らの姿も見あたらない。きっと私は、彼らの事を一生忘れられない。死と言う選択をした彼らの弱さ、愚かさ、そしてあの美しさの断片を感じてしまった以上、私も彼らと同じなのかもしれない。
雨の道を歩く。雨雲は黒く、光はどこにもなかった。


とある喫茶店での独自
(あまりに寂しく、孤独な、)

前のページ
次のページ